doji

愛おしき隣人のdojiのレビュー・感想・評価

愛おしき隣人(2007年製作の映画)
-
3部作中ではいちばんメランコリーと死の匂いがする作品だと思う。にもかかわらず、どういうわけかいちばんユーモアと愛にも溢れた質感がとてもいい。

だいたいロイ・アンダーソンの描く人々はシーシュポスの神話のように日々を過ごし、うまくいかないことに苛立ち、涙を流し、それでも「明日があるから」といってラストオーダーでその日最後の一杯をあおる。そんな繰り返しの中で、本作では第四の壁を越えて、登場人物たちが昨日みた夢の話をする。そしてそれが映像として表現されていく。夢が終われば、またかわりばえのしない明日がやってくる。

中でも、音楽をするひとたちの登場が、とても本作を魅力的にしているように思う。シーシュポスが閉じ込められたループの中でも、登場人物たちはそれとなく楽器をもち、迷惑がられながらも演奏していく。ロックミュージシャンに恋をする登場人物の存在はとても象徴的で、彼女のみる結婚式の夢は、この映画の登場人物すべてがみたい夢のはず。それを彼女に託したのは、ひとえに若さなのかな。

ラストシーンでけっこうはっとさせられるカットがあるのは3部作の特徴である気がするけど、本作はとりわけ異彩を放っていて、これはシーシュポスの神話の終わりと捉えるとすると、希望でもあり暴力という強制終了なのかもしれない。観終わってから、ぷっつりとループから切断されてしまったかもしれない登場人物たちのことを思うと、なんとも胸の中で複雑な気持ちが沸き起こってくる。
doji

doji