Cisaraghi

ライアンの娘のCisaraghiのネタバレレビュー・内容・結末

ライアンの娘(1970年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

1970年の巨匠デヴィッド・リーンの大作。というか、リーン作品には大作しかないのだろうが。身も蓋もなく言ってしまえば、アイルランドの寒村に住む欲求不満の若妻が、色男の傷痍英国人将校によろめく話(語彙が昭和過ぎる…)なのだが、さすがにデヴィッド・リーンなので話はそれだけに終わらず、大きくドラマチックな展開を見せる。

画面に写っている場所がすごい絶景。アイルランドの西南部・ディングル半島。海沿いの丘の上にある寒村(全てセット)。断崖の続く海岸線。丘から下りていくビーチ。海を背景に建つ石造りの小学校。バスを降りてきた人の後ろに写る輝く海と島。デヴィッド・リーンはなんとフォトジェニックな場所を見つけたのだろう。時に荒れ狂う海。

アイルランド訛り、カソリックと神父さまの存在の大きさと近さ、反英感情、独立の歴史、子沢山、美しい海岸線を持つ緑の島であること、素朴な石積みの垣根、今も同じ失業問題、などなど。アイルランドについての基本的な事柄の多くはこの映画で学んだ。何より、アイルランドがいかに美しいところかを知った。

夜半、たくさんの白い百合の花が風に揺れるのが最も印象に残っているシーン。風の強さもアイルランド。

屈強な西部の男のイメージだったロバート・ミッチャムが演じるのは、年の離れた元教え子と結婚する中年の冴えない田舎教師。若い妻ロージーの不倫に感づいたチャールズが見せる大人の男の弱さと心の痛みが何ともたまらなかった。それでも窮地に陥った妻を見捨てないチャールズ。抑えた演技に胸を締めつけられる。 
 ロバート・ミッチャムの、それまでの確立されたイメージを覆す名演あってこその、この映画の忘れ難さだと思っている。

導入部、絶景に重なって、風の音と共に震えるように繊細なモーリス・ジャールのテーマ曲が始まる。One of the most beautiful pictures that I've ever seenと思わず英語になってしまう美しい音楽、美しい映画だ。

官能的な森の中のラブシーンも美しいのだが、差し挟まれる比喩的な自然描写があまりにもベタ過ぎて、今思うとちと惜しい。
 クリストファー・ジョーンズがこのシーンの撮影を拒んだので、サラ・マイルズとロバート・ミッチャムは共謀し、ミッチャムがジョーンズのシリアルに薬を盛ってジョーンズの意識を朦朧とさせ、何とか撮り終えた、という曰く付きのシーンらしい。

美しい作品ながら、リーン作品の中では残念なことにあまり知られていないこの映画、サラマイルズがもう少し有名な美人女優だったりすれば違ったのかな、と思う。その後出演した映画のイメージもあるのか、実は私もサラマイルズはわりと苦手。

ちなみに、この映画の風景、釧路から霧多布にかけての道東の海岸線に似たような雰囲気のところがある。夏の旅行先にお薦め。

唐突だが、ウォンビンがもっと年を取ったら、韓国で是非この映画をリメイクして、ロバート・ミッチャムの役をウォンビンにやってほしい。もちろん英国の代わりに来るのは日帝だ。日本では日韓合作ドラマでブレイクした演技力のあるウォンビンに相応しい映画であり、役だと思うのだが。余談にもほどがあるな(スミマセン…)。
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