こたつむり

肉弾のこたつむりのレビュー・感想・評価

肉弾(1968年製作の映画)
3.8
★ 日本ヨイ国、キヨイ国。
  世界ニ一ツノ神ノ国。
  日本ヨイ国、強イ国。
  世界ニカガヤクエライ国。

「昔は良かった」
と言われてもピンと来ません。
少なくとも食糧事情や衛生面に関しては現代のほうが格別に良いと思います。労働条件も良いでしょう。机の上で右から左に数字を動かすことを“仕事”と呼べるのですからね。

ただ、情緒面で言えば。
昔が良いのか、今が良いのか。
それは一概には言えません。それに耳が良い人ならば軍靴の響きが聴こえる昨今と、天から光が降り注ぐことに恐怖を抱いた昭和と…どちらが良いのか。それも単純に答えることは出来ません。

さて、本作は鬼才岡本喜八監督の戦争コメディ。鑑賞前はタイトルの持つ“不穏な雰囲気”から尻込みしていたのですが、観てみればその軽さに驚いた始末。ただ、そちらのほうが逆に怖いんですけどね。

確かに本作が作られた昭和40年代は、ギャグの中に狂気が染み込んでいた時代。漫画でも永井豪先生や古谷三敏先生の作品はトラウマになるくらいに怖かったですからね。そういう筆致を許容する風潮だったのでしょう。

また、本作で特筆すべきは美術の持つ存在感。
終戦間近を表現した瓦礫の山、山、山。
埃が舞う軒先と湿った畳、そしてかび臭い古本。くたびれたゲートルと蚤が飛び立ちそうな毛布。そうです。これが昭和の真の姿。綺麗な夕陽だけで作られた“まがい物”とは違うのです。

だから、主人公の青春事情が胸を刺すわけで。
大谷直子さんの思い切りのよい脱ぎっぷりも含めて、あんなに痛くて切なくて下半身がムズムズする展開はありません。“死”がすぐ横に在るのも見事な限り。まさしく生物の本能ですね。

まあ、そんなわけで。
戦争の狂気を軽妙に描いた作品。
はたして生まれ変わったら人間が良いのか、ワラジムシが良いのか。劇場公開から50年を経た今だからこそ、本作の問いに真正面から向かい合うべきだと思いました。

僕は…あなたに出逢うために人間が良いです。
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