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旅愁の都のotomisanのレビュー・感想・評価

旅愁の都(1962年製作の映画)
4.0
 無口な宝田に女難あり。伏し目がちな星由里子を見染めて以来身辺が騒がしい。建築設計のクライアントから娘の婿へと招請がある一方その仲立ちのマダムまで宝田に岡惚れ。大資本家や玄人まで巻き込むとはきな臭い。
 そんな波乱含みな設定を抑えて雌伏する恋愛を通すところが結構よい塩梅だ。実は家庭の事情から「過去のある娘」となった星の引っ込みっぷりが遊び人イメージの宝田の無口な装いに不思議と相性よく見える。そこに星の幼馴染の藤木が昔の恋の焼けぼっくいを抱えての横恋慕(未遂?)なんぞがあってすったもんだするのかと思うと...
 奇妙にも押さえまくりのこの映画、復興なった淀屋橋界隈の人けのなさも頭越しの道路の無さもカラリと乾いた雰囲気にどこの都かしらと思え、飛んで沖縄の一番近所のアメリカっぽいへんな馴染みの良さも、この映画の低電圧感を後押ししている。
 だもんで、最後、土佐堀っペりで黒装束に身を隠す星を口説くマダムとのシーンから再会する沖縄の一号軍道ドライブの星=宝田まで趣をガラリと変えて行くようでいて、守礼の門から後ずさりして遠ざかる二人の後ろ姿になぜかきな臭さがたなびくようなという、煮えても煮え切らないという陰のある佳作であった。
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