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坊やの人形のmanamiのレビュー・感想・評価

坊やの人形(1983年製作の映画)
4.6
ホウ・シャオシェン『坊やの人形』、ソン・ジュアンシャン『シャオチーの帽子』、ワン・レン『りんごの味』の3部作で構成されている。ほぼ同時代に、わずかに先行して製作された『光陰的故事』と共に台湾ニューシネマの誕生を宣言した作品であり、民主化への流れの中でニューシネマを捉えるならば、『坊やの人形』が与えた意義は大きい。表題作『坊やの人形』の台詞に台湾語を使用し、かつて批判された台湾郷土文学をそのまま映像化して見せたのに加え、『シャオチーの帽子』では日本製圧力鍋による事故を、『りんごの味』では駐在米軍が起こした交通事故を取り上げることで、冷戦体制下で国際的に弱い立場にある中華民国の現状を批判的に描いた。そのため、『りんごの味』については怪文書が担当局に送られ、電影検査法に基づく検閲で一部カットされる騒ぎとなり、台湾映画史上に「りんご削り事件」として記録されている。また、注目すべきは台詞に台湾語が用いられている点である。当時は北京語が主であったが、ホウが監督した『坊やの人形』では台詞が全て台湾語となっている。オムニバスの3話を合わせて北京語と台湾語が半々になるよう製作されており、当時の検閲を通過し台湾の観客に衝撃と感動を与えた。生活の場で広く使われていながら学校やマスコミ、映画を含む表現の場で使用を禁じられていた言葉が、初めて意識的に映画の中で使われたことには大きな意義があったといえる。
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