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過ぎゆく時の中でのnetfilmsのレビュー・感想・評価

過ぎゆく時の中で(1989年製作の映画)
4.0
 アロン(チョウ・ユンファ)と一人息子のポーキー(ウォン・コンコン)の朝のドタバタぶりを告げる導入部が素晴らしい。この場面だけで、2人の関係性や仲の良さがわかる。アロンにとってポーキーは自慢の息子であり、幼い頃の自分の面影を持った大切な一人息子である。ヤンチャなポーキーを演じるのは、『僕たちは天使じゃない』と『ゴールデン・ガイ』と併せて、チョウ・ユンファと3度目の共演となるウォン・コンコンであり、今作では実の父子という間柄で息の合った演技を見せる。アロンは大事故のトラウマなのか、それとも大恋愛のトラウマなのか、息子を育てる責任感からなのか、10年間1度もレースを走っていない。そんな父と息子の生活が一変するのが、シルヴィア・チャンの再会からである。片親のトラック運転手として、生活を一手に引き受けるチョウ・ユンファの生活は困窮しており、息子をCMタレントにして一攫千金を夢見るのだが、そこで出会ったシルヴィアは、かつてポーポーと呼んでいた昔の恋人であり、ポーキーの母親なのである。シルヴィアはその後渡米し、母親に引き取られ、死んだと言われていたわが子が生きていて、今のポーキーであると知って驚きの表情を見せる。

 まだハリウッド・デビュー前、駆け出しの頃のチョウ・ユンファとシルヴィア・チャンの初共演作。チョウ・ユンファは初期には『風の輝く朝に』や『傾城之恋』などのメロドラマ然とした作品があったが、この後に主演した『男たちの挽歌』の大ヒットがきっかけとなり、チョウ・ユンファ=マークのイメージが大陸中国及び世界に急速に広まっていく。タランティーノがオマージュを捧げた『友は風の彼方に』や『愛と復讐の挽歌』シリーズでもチョウ・ユンファが大活躍だった。そのアクション・スターとしてのチョウ・ユンファのイメージを180℃変え、演技派に成長させたのが今作である。今や『イップマン』のプロデューサーとして知られるレイモンド・ウォン(当時は香港を代表する喜劇役者だった)は、今作を最初から悲劇として考えていたという。『僕たちは天使じゃない』と『ゴールデン・ガイ』という2つの喜劇に挟まれた今作は、当初別の監督が起用されるはずだったがスケジュールが合わず、コメディを十八番としていた新人ジョニー・トーに白羽の矢が立った。ジョニー・トーにとって初のファミリー映画だったが、B級プログラム・ピクチュアに長けた職人監督であるジョニー・トーにとっては悲劇も喜劇も関係なかった。

クライマックスではアロンが遂に10年ぶりにレースに復帰する。それまでジャッキー・チェンのようなおかしなカツラを被せられていたチョウ・ユンファが髪を切り落とし(たフリをし)、短髪になって登場する。その後ろ姿に滲むのは、ポーキーとポーポーへの熱い想いであり、10年前に幸せに出来なかった家族への懺悔の気持ちにも見える。