ひろ

紀子の食卓のひろのレビュー・感想・評価

紀子の食卓(2005年製作の映画)
3.8
園子温監督・脚本によって製作された2006年の日本映画

ショッキングなシーンがトラウマになりそうだった「自殺サークル」のその後の世界を描いた作品。「自殺サークル」は“集団自殺”をテーマにしていたが、「紀子の食卓」は“レンタル家族”というものにスポットを当てている。希薄になった現代の家族の絆を、園子温らしい陰の視点から描き出す。

冒頭から詩人・園子温の世界観が表れていて、独特の雰囲気を醸し出す。姉妹、クミコ、姉妹の父親などの様々な視点から、崩壊した家族を描く、真っ黒なホームドラマだ。そこに「自殺サークル」の真相まで絡んでくるから、「自殺サークル」を観ておくと解答編としても楽しめる。

現在の自分から脱皮しようとする紀子を演じた吹石一恵。清純なイメージの彼女の雰囲気を活かしつつ、さらに一段階上の演技を見せていたと思う。クミコを演じたつぐみは、個性的な役をやらせたら安定感がある。紀子の妹を演じた吉高由里子。すっかり売れっ子になったけど、この時からエキセントリックな魅力を発揮している。

この映画で一番魅せていたのは、紀子の父親役の光石研だろう。町を愛する記者であり、ありふれた家庭の父親だったはずなのに、何も解っていなかった自分に絶望する。この人はあらゆるジャンルの映画やドラマに出演しているけど、どんな役でも違和感を感じさせない。それってすごいことだ。名優です。

自分は人間の陽を描くタイプだから、園子温のような陰を描くタイプの人を尊敬してしまう。心の闇に向き合うのは難しい。それを他人に見せるなんてなおさらだ。嫌なものに目を背けるのが人間の常だ。だから、園子温作品を嫌いな人もいて当たり前だ。でも、闇と向き合うことで、光が見えてくることだってある。園子温作品にある光を感じとってもらいたい。

それにしても、マイク真木の「バラが咲いた」の使い方がエグい(汗)
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