サマセット7

荒鷲の要塞のサマセット7のレビュー・感想・評価

荒鷲の要塞(1968年製作の映画)
3.7
監督は「戦略大作戦」のブライアン・G・ハットン。
脚本と小説版執筆は小説「女王陛下のユリシーズ号」や「ナヴァロンの要塞」で知られるアステリア・マクイーン。
主演は「バージニア・ウルフなんて怖くない」のリチャード・バートン。
共演に「戦略大作戦」「ダーティハリー」「ミリオンダラーベイビー」などのクリント・イーストウッド。

第二次世界大戦下。
連合国軍の大規模反攻作戦の鍵を握るアメリカ軍の将軍が飛行機事故によりドイツ軍に拘束された!
収監されたのは、「鷲の城」と呼ばれるアルプス山中の断崖に聳える難攻不落の城塞!
英国情報部は、救出チームを編成。スミス少佐(バートン)率いる6名の情報部員と、米国レンジャー隊のシェイファー中尉(イーストウッド)の混合チームであった。
7名はドイツ軍機に偽装した輸送機で、城塞近くに降下!早々に死者が出て暗雲立ち込める中、城砦への決死の潜入作戦が開始される…!

監督として硫黄島二部作やアメリカン・スナイパーなど評価の高い戦争映画を撮っているクリント・イーストウッド。
俳優専業時代を振り返ると、戦争映画としては本作と「戦略大作戦」に出演している(「白い肌の異常な夜」も一応南北戦争下の兵士が主人公だが…)。
いずれもブライアン・G・ハットン監督作品。
スパイによる要塞潜入アクションに、戦場での金塊強奪コメディと、作品カラーには大きな違いがあるが、戦場でのリアリティを積み重ねるというハットン作品の特徴は、イーストウッドに少なくない影響を与えたのではないかと思われる。

今作は、戦時下を舞台にしたスパイアクション映画である。
冒頭、専門家チームものかと思いきや、早い段階でメンバーは離脱、分断され、大筋はスミス少佐とシェイファー中尉のバディものめいた進行となる。
戦争アクション映画の名作の一つと評価されており、戦争映画ベスト100などの企画でしばしば選出されている。

今作の魅力は、謎と捻りを仕込んだ凝った脚本と、CGのない時代ならではのリアリティある骨太スタントアクションにある。

冒険小説の大家が脚本を描いただけあり、今作のストーリー展開は面白く、先が気になって2時間半超の長尺を見せ切る。
当初からいくつもの謎が提示され、物語を牽引する。
捕まった将軍とは何者か?
なぜこのメンバーが選ばれた?
なぜ、1人アメリカ人が選抜されている?
実現不可能とも思われる決死の作戦の意味とは?
不可能作戦に挑むスミス少佐の意図とは?

そして、降下作戦後、直後にメンバーの1人が殺害され、早々に導き出されるもう一つの疑問。
すなわち、裏切り者は誰だ?

今作の原題は「Where eagles dare」。直訳すると「鷲どもが挑む場所」といったところか。
輸送機で潜入するスミスたちを鷲と喩える意味もあろうか。
ドイツの国章は歴史的に鷲であることも関係するかも知れない。
とはいえ何より、断崖に作られた難攻不落の城塞そのものを意味すると捉えるのが素直だろう。邦題はその意味で適切である。

序盤にバン!と双眼鏡を通して問題の城塞が映るシーン。
一眼でわかる、「これ、無理でしょ!」というインパクトが凄い。
城塞に入る方法は、ドイツ軍が管理するロープウェイのみ!!
え、どうやって入るの?
もちろん、ロープウェイを使って入るのである!
この辺りの荒唐無稽一歩手前のスパイアクション展開は、007などの先行作を思わせる。
今作は基本的に硬派でシリアスな作品なのだが、冷静に考えるとなかなか超現実的で豪快な展開を多く含む。ツッコミながら観るのも一興かも知れない。

今作の最大の見どころは、城塞侵入後の司令室でのシーン。
一瞬本気で「何言ってんだ、こいつ?」となるというなかなか得難い経験ができる。
状況は二転三転し、先を読ませない。
このシーンには、スパイ映画の醍醐味が詰まっており、今作の名作たる所以となっていると思う。

ロープウェイを使った高所恐怖症の人には非推奨のスタントアクションをはじめ、今作のアクションは、一つ一つ丁寧に撮影されており、なかなか迫力がある。
冒頭のパラシュートによる雪中の降下シーンや、雪の中の散策シーン、荷物を一つ一つ下ろしたり運んだりするシーンなど省略もできそうだが、描写を積み上げることで、リアリティを生んでいる。

じりじりした展開が続く前半を越え、後半に至ると後は一気呵成。
銃撃戦!爆発!高所!カーチェイス!
そして、ミリタリーマニアには有名らしい脱出シーン!
見せ場は滑らかに連続して語られ、目が離せない。
前半、じりじり時間をかけて張った伏線が回収される様は爽快である。

今作時点でリチャード・バートンは実績ある名俳優。
一方でクリント・イーストウッドはマカロニ・ウェスタンで人気者になったとはいえ、ハリウッドに帰還したばかりの色物俳優。
役者としての格の違いは、作中の扱いにも反映されている。
だいたい知的なパートや懇ろのボンドガール的美女の協力を得てキスするような美味しいパートはバートンが担当する。
それにしては、イーストウッドは十二分に目立っている。
目立ちまくっている、と言っても良い。
今作では彼はとにかくドイツ人兵士を殺しまくる。
どこの西部から来たのかという早撃ちにはじまり、ナイフ使いもお手のもの。
果ては、「二丁機関銃」!
何を言ってるのか分からないと思うので、ご自分の目でたしかめていただきたい。
キャラクター面でのイーストウッドらしさは、ラストのセリフでようやく発揮される。

今作はジャンルムービーであり、テーマとか真面目に考えるのも洒落臭いわ!という系統の映画である。
普通に考えたら、「難攻不落の要塞への潜入作戦とか、めちゃくちゃテンション上がらない!!??」というのがテーマだろう。
あえて深く考えると、「人の本性は、いかなる場面で明らかになるか」という点がテーマと言えようか。
主人公スミス少佐の言動や作戦そのもの、物語の顛末がこのテーマを象徴している、と言えるかも知れない。

今作の前半がとにかくジリジリと長いことは、欠点と言えなくもない。
総尺は2時間半。気楽に観るにはさすがにキツイ。
前半の描写を、丁寧な戦場の描写の積み重ねととるか、冗長ととるかで評価が変わりそうだ。

クリント・イーストウッドも活躍するスパイアクション映画の力作。
他作品に与えた影響も大きいらしく、そのあたり調べてみるのも面白そうである。