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東京物語のtsのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.1
2017 年最後に鑑賞する邦画。
恥ずかしながら、初めて「東京物語」を鑑賞した。

ここまで有名かつ高く評価されている作品だとレビューだなんておこがましいが、たかだか 60 年ほど前にもかかわらず、現代人が忘れてしまった純朴さ、心根の美しさが随所に感じられ、痛く心を打たれた。この作品が舞台としている 1953 年から少しで、日本は高度経済成長の時代に入っていくわけだが、心の豊かさの尺度が既に戦後 8 年にして変わり始めていたことが読み取れる。経済成長の支えとなるのはテクノロジーの革新に加えて、資材や商品の輸送網の発達が欠かせないが、心の豊かさが失われた原因のひとつとして、単なる資本主義の色濃い影響に加えて、鉄道インフラの発達に伴う、人びとの離散が挙げられるんだろうと、この作品を観て痛感した。

また、この老夫婦が二人きりで交わす会話から、年を取るということはこういうことなのだろうか、と改めて考えさせられた。諦念ではない達観の視点、無我の境地ともいうべき寛容さ、そんなものがひしひしと伝わってきた。

悪役もでてこない、事件もおきない、そんないたって静かなストーリーなのに、人生や家族を見つめ直す機会を与えてくれるだけでなく、今後の老い先の道標を示してくれるような、すごい作品だった。

また少し時間が経ってから観てみたい。
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