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東京物語のmasayaanのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.8
記録によれば、2015年1月以来の再見。当時、4.2というスコアリングで誤魔化していたようだが、いやあ参ったね。今度ばかりは正面から傑作と謳い上げなければなるまい。

断固として固定された画面、ドラマの断片をかすめ取るように制限されたアングル、そしてその持続と反復。その執拗なカメラワークに加え、編集上の「省略」の技法も凄まじい。さらには、アクション繋ぎのバリエーションと言って良いのか、団扇のシーンが団扇のシーンに繋がれ、寝床のシーンが寝床のシーンへと無言のまま繋がれる。その滑らかな語りの呼吸に、時を忘れた。

家族の終焉という大きな主題は、役者たちの喋る本音と建前で曖昧にされ、じりじりと先延ばしにされるが、わざわざ子供たちに会いに東京へ出てきた老夫婦が宿無しになって途方に暮れるあたりでついに顕在化する。どこまでも虚礼を重ねる実子たちをよそに、親たちの我慢もなかなかだが、その不満は酒の席でようやく言語化される。あるいはその同時刻、原の演ずる紀子への思いを、義母がついに言葉にして語る。(個人的には、あの社宅部屋のシークエンスが最高潮。)

それでもただ1人、最後の最後まで本音を語らぬ女として、原は自身を、そして映画を律し続ける。やがて静寂の彼方に訪れる、言葉と感情の洪水。クライマックスだ。ある意味ではハッピーエンドとも言えるだろうが、分かりやすいドラマを引き受けたとも言える。しかし映画の抑制を破った彼女を罰することのできる人間など、無論、誰一人としていない。だが安心して欲しい。涙を拭き取るには十分な余韻が、最後にちゃんと与えられる。
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