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東京物語のおっとのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.0
時間と移動を心の距離に置き換えた映画なのかなと感じた。
広島、大阪を経由して東京(帰りもある)という移動がこの映画の時間の流れの中にはあるはずなのにそれが描かれることはない。移動が映らない。
家族離れていても心の距離は近いということなのかなと。
また、はじめに夫婦二人が荷造りをしているシーンがラストではおじいさん一人になっていて、はじめと終わりの映像が対になっている。
その「対」の映像が「時計」をきっかけに始まるので、この映画の鍵が「時間」なのかなと思った。

会合があるけどそれを説明するのが煩わしいから熱海に行かせたなど「悪意のない悪意」って人間には必ずあると思っていて(ひと昔前お世話になった人に言われてすごく心に残ってる言葉)それをこの家族の子供たちが表しているのが悲しかった。
悲しかったけど、東京に来た二人は自分たちの子供だけど手を離れていって心の距離感も変わると考えている。
それはたぶん人間の中で一番の付き合いの長い人間だから。

息子の嫁でやってきた義理の娘が「言わば他人のあなたが子供たちよりもよく尽くしてくれた」のは褒め言葉のようで心の距離感を端的に表した言葉だなと感じた。あくまで他人だからまだ心の距離が近く、遠慮があり、尽くす。
日本人のおもてなしってそういう心の距離感を無意識に表すものだよなと改めて気がついた。
やたら家族の話に首突っ込んでくる近所のおばちゃんも「窓」という境界線を引かれていて、あくまで「外」の関係に位置している。
これらについて作品の中で説明があったり、語られたりするわけではないけれど、見終わって考えるとそう気がつかされる。
たぶん、日本人が無意識で感じている、考えていることが映像で計画的に収められているのだと思う。

冷たくされても(子供たちはちゃんとおもてなししてるつもりだけど親にはバレている)孫よりも子供たちのほうがかわいいと言える両親がすごく素敵だなと思った。
途中少し子供たちに対する「変わったなぁ」という愚痴はあるけれど、いつまでも子供はかわいいものなのだと。

ドラマティックさもなく、アクションもない映画だけど「生活」を映し「心」を映し「日本人」を見事に撮りきった作品だと感じた。


映画のタイトルに「東京」とあるように、東京住まいの子供たちが合理主義的な時間の感覚で生きているなと感じた。
両親と時間の流れ方が全く違う。
それを表しているのが東京のバスと尾道の景色に映っている船かな。
東京に着いたあたりから、年齢の問題だけではない両親の動きのゆっくりさが目立っていて「この二人は東京と流れる時間が違うんだ」と思わされた。その時間の流れの違いは最後まで感じていたけれど。
「私にもしものことがあったら」という仮定のいつかの話と、「母親の葬式の前に形見が欲しい」は物事を考える速さが根本的に違っている。
その対比が見事な映画だと思った。
取り立てて目立つセリフがあるわけではないけど、一言一言が重く心に残る。だから対比として考えることができるのだなと。

下から全身を映す固定されたカメラで撮る日常の映像は、生活を覗き見しているようで、あくまで普通の「生活」を切り取っただけの映画だけど、エンタテインメントを感じた。
ドラマティックさは作るものではないのだな。

すごく心に響く作品だった。
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