Azuという名のブシェミ夫人

Ricky リッキーのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

Ricky リッキー(2009年製作の映画)
3.4
フランソワ・オゾンの作品は画的・物質的な美しさというより、作品中に漂う繊細な空気感が美しいと感じる。
私のイメージとしては、冬の早朝の澄んだ空気。
深呼吸して肺へ空気が流れ込むと体が冷たく満たされて、スっと浄化されるように感じられるあの空気。
ただ作品を観終わった心にいつも少しだけ問いかけを残していくのだけれど、それが病みつきでありまして。

さて本作『Ricky』。
ジャケットにドドンと登場のとってもキュートな赤ちゃんのお名前です。
シングルマザーのカティが、工場の新入りスペイン人パコと親しくなり、やがて2人の間にリッキーが誕生。
問題はこのリッキー、なんと成長していく過程で翼が生えてきてしまうのです。
シリアスな展開と思いきや急に溢れるファンタジー。
それでオゾン監督さ、翼あんなにリアルにする?
赤ちゃんがめっちゃ可愛いのに、翼の生え始めがグロい。
羽を剝かれたチキン。手羽先。(美味しいよね←)
ウネウネ動いてんのも恐い。
羽毛で覆われ始めた時、心底ホッとしたのは私だけじゃないはずだ。

愛らしい赤ちゃんに翼ときたら、なんとなく天使を連想します。
リッキーの羽は天使でイメージする真っ白で可愛らしいものではなく、鷲のようにガッシリ力強いのですがね。
監督は別に天使を描きたかったわけじゃなくて、リッキーを目に見えてハッキリとした異端の存在にすることで、“世間からの疎外感”を分かりやすく描写しただけなのかな、と思ったりしました。
家庭を築くことが出来ずシングルマザーとなったカティ。
そのことから周りの子と違って父親が不在である娘のリザ。
カティの恋人でリッキーの父親であるパコは外国人であり、会社でも新入りなことから、まだフランスが自分の居場所として定着していないように思える。
みんな心のどこかで『周囲とは自分は違っている』と感じており、極端な言い方をしてしまうと異端者であったのかもしれない。
そこへ圧倒的な異端の特徴を持ったリッキーが現れたこと、そしてそんな彼が空を飛びまわり地上の重力から“自由”であることは、彼ら家族にとって心の解放の象徴となったのではないでしょうか。

それにしたってね、大人!!!
もっとしっかりせんかい!!!!
リッキーのお姉ちゃんリザが一番可哀相で、一番状況を冷静に見ていた。

でも、結果的にリザに“家族”を取り戻させたリッキー。
他の誰でもなく、リザの為に。
やっぱり天使だったのかもね。