つぼかび

セールスマンの死のつぼかびのレビュー・感想・評価

セールスマンの死(1951年製作の映画)
4.5
もうすぐ社会人!って時期に観る映画じゃなかったみたいだ・・・。かつては敏腕セールスマンの父と献身的な母、活発な息子たち(長男の名前は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のいじめっ子と同じ名前)に恵まれた理想的な都市家族だったLoman家が、周囲の目を気にし、過去と夢にすがり続けた果てに”Low-man”家へと成り下がっていく様を冷徹に描いた悲劇。息子が思うように大成しなかった理由を周りに聞いて回り、最期まで、今度は人参の種を蒔いて立派に育てようとするウィリーの姿は本当に見ていられない。同名劇を映画化した1951年の作品だが、ここで描かれている家族の理想と現実は今尚リアル。むしろ両親共に、ってパターンの方が多いかも。

タイトルからして結末は明らかなのだが、肉親の姿を借りて現れる死神や高笑いが印象的な魔女の存在は印象的で、特に魔女のために引き起こされる破滅のトラウマは、いわゆる分かりやすく精神分析的な幼少期のトラウマ、からはズラされ反転されたトラウマゆえに物悲しい。そしてなにより現実/妄想、現在/過去、生/死(この二項が一番大きくて、冒頭とラストの相似なシーンに投影されている)が”ふわっと”入れ替わる演出の異様さといったら・・・序盤、BGM・オフの音にしか思えない旋律にウィリーが一人耳を傾けるシーンで観客はこの映画の異様さを思い知らされる。

自分がNothingなんだと自覚出来た時、初めて現実に戻って来れるし月賦も払えるのかもしれない。
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