007ノータイム・トゥ・ダイにミステリーもサスペンスも感じなかったので、何かほかにいいスパイアクションはないものかと、例えば頭文字JBの男が追われたり殺されそうになったりしながら事件の真相に迫っていくようなそんな映画が…あ、あった!ジェイソン・ボーンがいるじゃないか!てなわけで久しぶりにボーン・アイデンティティをローディング。
夜の海。豪雨の中波間に漂う男のオープニングがいい。男には記憶がなく、スイスの匿名口座の番号を示すカプセルが尻に埋め込まれていた。だはー、こんなおもしろい導入ある? 漁船から始まるミステリーだよ。
マット・デイモンって地味だよね? 地味の中の地味というか特徴がないというか。どことなくジミー大西っぽくもあり。だが、そんな彼だからこそピタッとハマったジェイソン・ボーン役。とんでもない殺しのスキルを持ちながら、自分が誰だかわからない不安と恐怖に苛まれる男。あの地味さがこんなに不如意と相性がいいとは。
マット・デイモンの見た目が善性なだけに、自分の正体がわかるにつれて、知りたくなくなるってジレンマが生きてくるのな。気がつけば過去と向き合う心理的恐怖と現実に襲い掛かる物理的恐怖にのめり込んでるというね。
例えばこれをトム・クルーズが演ってたら、こうはならなかったはず。シュワルツェネガーのトータルリコールもよく似た設定だけど、もっと陽気で嘘っぽいもんね。
記憶喪失と洗脳、暗殺者の宿命、失った過去と取り戻したいアイデンティティ、強靭な肉体と精神力の秘密、ここにマリーとの恋愛が絡んでくる。これだけいろんな要素を絡めながら、てんこ盛りな感じがしないなんて。地味のなせる技だね。もちろんアクションシーンも地味だ。
例えば最初にスイスの警官を無力化するシーンが地味。けど、倒したあと何気にダウンジャケットを脱ぎ捨ててるところが渋い。ここ何の説明もないけど、容姿の印象を特定させないために無意識にやってる感じなんだよな。しっぶーー!
他にも貸金庫に銃を置いていく理由も説明ないし、空にショットガンを撃って、鳥の飛び立つ方向から敵の居場所を見当つけるシーンもいちいち説明しない。激渋。
だいたいミッション・インポッシブルのように見せ場のための見せ場ではなく、ストーリー上必要なアクションシーンなので、めちゃくちゃ印象に残る。格闘シーンもポールペンを使うとかとことん地味だし。けどそれがいい。痛っ!て声を上げそうになるよ。
マリーのキャスティングも絶妙。フランカ・ポテンテなんてこれ以上は望めないってくらい一般人だ。だってここで美女が出てきたら台無しだもんね。マリーが普通だからこそ、殺し屋が人間性を取り戻すリアルに説得力が生じるんだよね。
あとこれが他のスパイ映画とは大きく違うのが、殺し屋全員が没個性で使い捨てられる運命にあるところ。
ダニエル・クレイグもハビエル・バルデムも出てこない。名もなき消耗品感がすごいのだ。だからこそ非情な世界だと伝わるし、だからこそ知られざる存在なのだとわかる。こうしたこだわりがボーンシリーズを貫いていて、スパイは目立ってはいけないなんて基本中の基本が007やイーサン・ハントはできてないのだと思い知る。
続きも観ねば!