ちろる

少女ムシェットのちろるのレビュー・感想・評価

少女ムシェット(1967年製作の映画)
3.9
もう、オブラート包まずに始めから「世にも不幸な少女」とかのタイトルにしてくれれば良かったのに。
暗い、そし重すぎる。
約80分ほどの短い作品なのにこれ以上の長さではとても耐えられないほどに始まりからどんどん少女は奈落の底に突き落とされていく展開は後に「ロゼッタ」、「ダンサー イン ザ ダーク」に影響与えたというのも深く頷けるとんでもない救いのなさだ。
少女が将来に得るはずだった希望は全て大人たちに奪われて、彼女の周りには誰一人彼女を救う者も彼女がなりたいと思える大人の存在もいなかった。
ゴーカートのシーンで見せる唯一の笑顔もただのまやかし。

どうしようもない大人の中で唯一の愛のかたちである病床の母親も後半はただ穏やかに死を望み、その姿はムシェットの心にも繋がっていく。
もちろん「死」が尊いものだとは思わないのだけど、この作品における「死」は唯一の救いの儀式でもある気がする。

薄汚れた薄情な大人たちの中で、印象的に崇高に光るのは、度々少女ムシェットの無表情な頰をつたう涙の筋だけだけど、あんな微かな涙の量では偽善と欲望に汚れきった大人だらけの世界を洗い流すことはできなくて、ムシェットが母とともに旅立つことが許されないのなら台風の夜に街中の何もかもが全て全部消えて無くなってしまえば良かったんだと思う。
ラストは非常に地味で静かだけど、何故かこの80分で唯一の安らぎを感じてしまう。
そんな、自分が嫌だけどそれが本心。
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