keith中村

歌え!ロレッタ愛のためにのkeith中村のレビュー・感想・評価

歌え!ロレッタ愛のために(1980年製作の映画)
5.0
 私のような衒学的な映画ファンは、世界中のほぼすべての映画を観ているかのように嘯いてるくせに、実は「観たことがない有名作品」も(当たり前だけれど)何万本もある。そういう作品は誰にも知られずにこっそりと観て、でもその後は、さも「何十年も前の公開当時に観たぞ」という顔でその作品を語る、という非常にタチの悪い性質を持っている。
 だから、今日初めて観た本作も、実のところ、「あ~、これは俺が中1の時に劇場で観たよね~」なんて嘘をつきたいんだけれど、ちょっともう、そういう不誠実な態度が取れないくらいの傑作だったので、正直なレビューを書きます。
 
 はい。日本公開から40年目にして初めて観ましたですよ。そんでもって、最高でした。
 
 本作はもうシシー・スペイセクの魅力に尽きる。
 シシーったら、私世代はやっぱ「キャリー」ですよ。いや、もちろん1976年の「キャリー」も、もちろんリアルタイムでは観てないんですが、それでもその数年後、高校の頃には観たな。「ミッシング」も高校の頃のテレビで観た。
 なんだけれど、その2本の間に作られた本作は、ずっと観てなかったのです。今日まで。
 そしたら、もうこれが素晴らしすぎ。
 
 まずはシシーの歌声。
 なんやねん、この人! めっさ歌うまいやん! もうずっと聴いてたい。
 今観たばっかりなので、さらにその後調べた付け焼刃の知識ですが、本作のサントラでグラミー賞ノミネートされてるんですね。
 プロパーの歌手じゃないのに。それくらい上手い。
 
 次にはシシーのルックス。
 もう、可愛すぎ。キュートでチャーミング。
 ボウニーでスキニーで童顔なので若く見えるけど、本作当時ですでに31歳! 見えない見えない、全然見えない!
 特に前半のカウボーイ・ハットにカントリー娘なコスチュームとブーツで歌うシシーにはきゅんきゅんしてしまいました。
 
 だって、あれですよ!
 それこそ「キャリー」は高校の頃初めて観るまでにはすでに定番ホラー映画として定着してましたから、「コワ~い女優さんが出てるコワ~い映画」で「ラストで椅子から飛び上がる」なんて実に知らなくって観たほうがよい予備知識まで先に知ってた。
 でもって実際に「キャリー」観たら、シシー・スペイセクが怖いんだもの。
 それこそ最近の「ヘルプ」とか「さらば愛しきアウトロー」とかを観て、「あれ? えっと、これ、誰だっけ? あ、シシー・スペイセクだ! めっちゃ可愛いお婆ちゃんになってるじゃん。もう、笑った顔最高!」みたいになって、久しぶりに「キャリー」観返したら、「あっ、最初っからこの人は可愛かったんだ!」ってなりましたわ。
 プロムのシーンはもちろん可愛いし、序盤はわざとその落差を描くためにデパルマは「コワ~い」感じに撮ってるんだけれど、それでも今観るとキュートすぎ。
 クロエちゃんのリメイクの失敗点は、クロエちゃんを最初っから可愛く撮ってるとこね。
 
 だから、本作のシシーちゃんも(自分より20歳も年上の女優さんを「ちゃん」呼ばわりするのもどうかと思うけど)、萌え死ぬくらい可愛かった。
 こら! 誰ですか、佐々木蔵之介に似てるなんて言ってる人は!
 
 同じ線で言うと、ミア・ファーローもそうですね。
 あの人も若い頃に「コワ~い映画」に出てるボウニーでスキニーで童顔な女優さんなんだけれど、最近のめっちゃ可愛いお婆ちゃん姿を見て惚れ直した女優さん。
 
 三番目によかったのは、これは一つ目の歌声と同じっちゃあ同じ「褒めポイント」なんだけど、セリフ回し。
 気弱そうに見えて、話し出したら止まらないケンタッキー訛りのマシンガン・トーク。
 シシーの、「エイ」がやや「アイ」になる発音の耳あたりのよさ。
 南部英語って、「タイム」→「ターム」みたいに二重母音が短母音化することが多いんだけれど、この「エイ」が「アイ」になる、「アメリカではあんまりない音便」に加えて「アメリカ独特の『暗いR』の響き」が、それこそ歌ってない喋りシーンでもとても心地よかった。
 この発音、アイルランド英語に近いよね? かなり気持ちよい。
 
 よし。ここまでストーリーのネタバレは一切せず書けたぞ、珍しく。
 
 「今日初めて観ましたカミングアウト」しちゃった本作なんだけれど、これって10代で観なくて正解だったとも思う。
 だって、その頃はまだロレッタ・リンもパッツィ・クラインも知らなかったもの。
 今観てこそ、「えっ! この二人ってそんなに親しかったんだ!」ってめっちゃビックリできた。
 ってか、本作で大先輩に見えたパッツィ・クラインって、実はロレッタより数カ月歳下なんですね~。
 
 まだネタバレしてないな。よしよし。
 
 じゃ、最後にこの映画の嘘をひとつだけ。
 もちろん、"Based on a true story"な作品だって映画である以上、いくらでも「演出」するんだけどさ。
 たとえばロレッタが実際には13歳じゃなく15歳で結婚したってところとか。
 
 じゃなくって、本作の最大の嘘は、宇宙人ジョーンズがロレッタに買ってあげるギター。
 あれ、ギブソンだったよね?!
 ポーン・ショップで買ったみたいなんで、定価よりはずいぶん安かったんだろうけれど、言ってもギブソンだよね?!
 あれ、多分サンバーストのJ-45だよ! 今の日本で買ったら200万円くらいするよ!
 
 で、気になって調べたら、ドゥーさんがロレッタに実際に買ってあげたギターのメーカーは「ハーモニー」だったそうです。

 つーか、私、ギターを初めて握って以来今年で43年目。手放したのも含めると、ギターは30本くらい持ってる(持ってた)んだけど、「ハーモニー」なんてブランドは知らなかったわ。ギブソンは持ってるけど、フフン♪(←誰にマウントしようとしてんだ、私ゃ?)
 日本でそれほど出回ってないブランドらしいけど、映画ファンと共にギターフェチを自認する私としては、知らなかったのが悔しかったわ。
 調べてみると、「ハーモニー」は1940年代のビンテージでも10万円以下で買えるみたいなので、やっぱチープなブランドなんでしょうね。
 J-45の何十分の1だよ。
 だから、ギターフェチとしてはちょっと看過できない「映画の嘘」ですわな。
 「ほんとは軽自動車だったけど、映画ではベンツになってる」みたいな。
 
 なんか、ここまで書いて読み返したら、「ハーモニー」が「ハーマイオニー」に見えてきた。ケンタッキー訛りの音便ではないんだけど。
 って書いたら、唐突に話が「ハリポタ」に飛んじゃいそうなので、今日のところはこのあたりで勘弁しとったるわ!