よしまる

木と市長と文化会館/または七つの偶然のよしまるのレビュー・感想・評価

3.8
 最初に「条件法」を教える妙にクドイ教師のシーンから始まる。もちろんこの教師は本作のキーマンであるが、ここではそんなことは触れられない。

 そして物語は7つの章に分かれて紡ぎ出されてゆく。「もし〇〇が〇〇してなかったら?」つまりドリフ大爆笑のもしものコーナーの逆だ(違う)。

 一体なんのこっちゃと思いながら観ていたら、徐々に結末に向かって条件が地固めされていってることがわかってくる。
 けれども、それがどのような結果に繋がっていくのかはなかなか明かされず、また条件がなぜその結果に結びつくのかについてもすぐにはわからない。

 こんなプロットの映画は初めて観たかもしれないし、それを説明的なセリフ無しにただひたすらに会話の応酬のみによって成立させているところがさすがロメール作品と唸るしかない。

 内容は政治色の強いもので、まったく望まれていない無用な箱モノを作りたがる政治家とそれを支える土建屋、環境破壊を訴え反発する住民という構図は国や時代が違っても共通する課題であり、トップに立つ男がリベラルを標榜しながら中身は保守なんてあるあるすぎて実に愉快w

 そしてラストは理想に満ちている。あまりにも幸せな結末すぎて、みんな歌い出してしまうほどだ。正直これには驚いたし、何より観賞後の満足度が半端ない。

 これだけのプロットを仕込みながらすべてを会話で成立させる、70代になってもそんな離れ業を軽がるとやってしまえるロメールはやっぱり偉大だなぁ。

 喜劇と格言シリーズに出演したロメールの常連たちが10年ぶりくらいに集まっているのもちょっと胸熱で、いつもながらの長回しによる会話劇も安心して観られるし、むしろこの脚本を喋り倒すのを楽しんでいる(ように見える)キャストたちの奔放な演技がめちゃくちゃ素敵な映画だった。

追記
どうしても書いておきたい。円熟味を増したアリエルドンバールが、カットが変わるたびごとに着替えるファッションがすごい。それだけでも十分に観る価値あり👀