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西部戦線異状なしのくりふのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(1930年製作の映画)
3.5
【ドイツはじき空になる】

2023アカデミー賞落ち穂拾いで、2022年版を見ようと思ったが、先にこちらを再見したくなり。見たのが昔々で、すっかり忘れてしまったし…。

舞台演説みたいに語り始めちゃう演出など、長くてクドいトコあれど、いい映画でした!

タイトルは、多分原作には記述があるのでしょうが、通常通りたくさん死んどります…という意味で異状なしってコトらしい。死体の大量生産を維持するノウハウ映画なのですね。

盲信老教師にそそのかされ、学校の仲良し皆で志願兵となり、生地獄へと送られる話。

舞台がドイツなのに英語を喋る違和感は、そのうち気にならなくなる。こういう地獄が訪れたら、場所はどの国でも変わらないだろうから。

今見ても凄まじいのは戦闘シーン。『プライベート・ライアン』のような残虐演出はないのに生々しく、まさにゾッとする感覚に、何度も襲われる。見せる技術はレトロなのに。

殺し合いは人でなしの所業。それも、他人から強いられてやらなきゃいけないとは。

監督からしてそうだが、当時は従軍経験者がコッテリ居たろうから、戦争を体験談として再現できたのでしょう。現代の戦争映画より、ずっと恐ろしい西部戦線が記録されたと思う。

遠くで音が鳴っているだけで恐ろしい…との感覚は、体験しないと描けないでしょう。

白兵戦で、ドイツ兵がやたらスコップを使うのも不思議だったが、実際に突き刺した後、銃剣よりも抜きやすいそうで、これも“経験者は語る”という描写だった。役立てたくねー。

人の減りかたがすごいんだよね。意気揚々と戦地に向かう時は仲間が多く、人物の見分けがつかないが…みるみる減ってゆくので問題ない…となってしまう経緯が、怖い!

画面づくりで感心したのは、レイヤーを具体的に用意して、舞台の果てない奥行きを醸しているところ。手前に敢えて窓を置き、窓越しに撮ったりしている。フィルムが古びて階調が潰れても、この手法のおかげでカナリのスケール感を維持している。映画智慧だと思った。

完成度は別にしても、フィクションとしての戦争…西部戦線の地獄痕が、生々しく真空パックされており、1930年のこれ一本あれば、殆どの戦争映画は不要じゃね?とさえ思った。

おかげで、2022年版は見なくてもいいかも…て気分になっちゃった。そのアカデミー受賞がきっかけだったのに。

まあ、そもそも戦争映画なんて、数はあんまりなくても、いいと思うんだけどね。

<2023.3.19記>
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