たった一枚の紙切れが、誰かの人生を狂わせている。
一枚の偽札。
悪ガキが作った無価値の産物。
一枚の偽札。
人を欺くために作られた無価値の産物。
一枚の偽札。
人を狂わせる無価値の産物。
ロベール・ブレッソンの遺作。
無機質な背景と、研ぎ澄まされた音。
『スリ』『抵抗』くらいしか観る機会がなかったけれど、相変わらず作風は変わらない。
淡々と進んでいく物語。
必要最低限の描写。
感情を露にしない人物たち。
ミニマリズムの境地。
モノの価値を決定付けるために作られたカネ。
だが今やカネのために殺人や強盗が巻き起こる。
明らかに恵まれたブルジョワの人物たちは、やはり生活に困っているようではない。
対照的に労働者階級である男は生活に困っている。
貧富の差を拡大させているのはこのカネである。
カネがこの世を牛耳っているのならば、人はカネに操られている。
そもそも偽札が作られたのも、悪ガキの小遣いが足りず、カネを必要としたから。
本物のカネはどれもグシャグシャになっている。
偽札はどれもきれいにぴったりと。
まさに異物のようにきれいに。
本作の映像はドキュメンタリーのよう。
手元ばかりが映され、物語の全容を映し出すことはしない。
非感情的であるからこそ、本作が与える衝撃は強いものがある。
逆に言えば、本作で登場する子どもと犬は感情を持ち(純粋無垢な存在)それが異質であるかのようにも思える。
音により物事の補足が起こることで、緊張感が付きまとう。
シンプルかつ硬派な作風であるからこそ、終盤の驚きと異様さが浮かび上がっていく。
登場人物たちの感情が感じられないことで、この世界自体が異質なものだと感じるだろう。
偽札を作った人間には何の罰も与えられず、最終的に手にした人間に罰が与えられる。
そう、この社会は不条理なんだ。
自分の関係する人間以外はどうでもよく、カネに目がくらんでしまう。
カネに操られるような世界。
でもこうやって世界はできている。