フラハティ

ラルジャンのフラハティのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
4.1
たった一枚の紙切れが、誰かの人生を狂わせている。


一枚の偽札。
悪ガキが作った無価値の産物。
一枚の偽札。
人を欺くために作られた無価値の産物。
一枚の偽札。
人を狂わせる無価値の産物。

ロベール・ブレッソンの遺作。
無機質な背景と、研ぎ澄まされた音。
『スリ』『抵抗』くらいしか観る機会がなかったけれど、相変わらず作風は変わらない。
淡々と進んでいく物語。
必要最低限の描写。
感情を露にしない人物たち。
ミニマリズムの境地。


モノの価値を決定付けるために作られたカネ。
だが今やカネのために殺人や強盗が巻き起こる。
明らかに恵まれたブルジョワの人物たちは、やはり生活に困っているようではない。
対照的に労働者階級である男は生活に困っている。
貧富の差を拡大させているのはこのカネである。
カネがこの世を牛耳っているのならば、人はカネに操られている。
そもそも偽札が作られたのも、悪ガキの小遣いが足りず、カネを必要としたから。

本物のカネはどれもグシャグシャになっている。
偽札はどれもきれいにぴったりと。
まさに異物のようにきれいに。

本作の映像はドキュメンタリーのよう。
手元ばかりが映され、物語の全容を映し出すことはしない。
非感情的であるからこそ、本作が与える衝撃は強いものがある。
逆に言えば、本作で登場する子どもと犬は感情を持ち(純粋無垢な存在)それが異質であるかのようにも思える。
音により物事の補足が起こることで、緊張感が付きまとう。
シンプルかつ硬派な作風であるからこそ、終盤の驚きと異様さが浮かび上がっていく。


登場人物たちの感情が感じられないことで、この世界自体が異質なものだと感じるだろう。
偽札を作った人間には何の罰も与えられず、最終的に手にした人間に罰が与えられる。
そう、この社会は不条理なんだ。
自分の関係する人間以外はどうでもよく、カネに目がくらんでしまう。
カネに操られるような世界。
でもこうやって世界はできている。
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