Moet

戦場のメリークリスマスのMoetのレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
4.5
反戦映画だと思って観ていたが、すぐにあらゆる愛についての映画だと気がついた。
エロスもフィリアもストルゲもアガペーも、全ての愛が在った(例えば、ヨノイからセリアズへのそれはエロスだし、セリアズからヨノイへのそれはアガペーだと思う)、それらの愛が、戦争下という極限の世界の中で、ただひとつの救済になり得る。愛は命を救えないが、魂は愛によってのみ救われる。

特に印象的だったのはハラで、彼は不満げに「なぁに?」という台詞を繰り返し、英語が理解できないことに対してフラストレーションを抱えている。まわりが英語で話している時すごく居心地の悪い表情をしているし、自分が拙い英語を話した後、若干の間に不安げな顔をする(北野武上手すぎる)。だからラストシーンが本当に嬉しくてつらくてたまらない。ロレンスとの再会はもちろん、彼がかつてハラにしていたように、言語を通し、相手に歩み寄るかたちでコミュニケーションを取れたことに対する喜びが溢れ出ていて。照れたような挙動のひとつひとつがまるで少年みたいだ!

人間は愚かで滑稽で、だけど同時にとても純朴な美しさも持ち合わせているのだと、そういうことを言ってくれている映画だと思う。
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