あーさん

戦場のメリークリスマスのあーさんのレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
4.0
意外にも最初から最後まで観たことのなかった今作。。

映画を観ていなくてもラストシーンのビートたけしの台詞とこのテーマ曲を知らない自分と同世代以上の人はいないんじゃないかと思うが、1983年公開当時観ていたらどんなふうに感じたのかなぁ。。
色々と話題になった作品だったが
多分、中学生の私にはちょっと難しかっただろうな。

監督の大島渚は"朝まで生テレビ"のイメージが強くて、実は作品を一作も観たことがない。
一番有名なのが今作か"愛のコリーダ" …ちょっと過激な人という感じで、あまり好きではなかった。


原作は、ロレンス・ヴァン・デル・ポストによって実際のジャワ島での日本軍捕虜収容所体験から書かれた「影の獄にて」。

雰囲気映画かと思いきや、掘り下げていくとそこには深いテーマと大きな愛が。。

キャストについて…
ロバート・レッドフォードor
ニコラス・ケイジ
→デヴィッド・ボウイ

三浦友和、沖雅也、滝田栄、
沢田研二or友川カズキ
→坂本龍一

緒形拳or勝新太郎
→ビートたけし

そうそうたる俳優陣に出演交渉するも諸事情で成り立たず、当初の予定から大幅にキャスト変更をせざるを得なかったという。

独特の世界観だし、同性愛を描いているし、演じ手を選ぶのかなと思うけれど、、
でもこのキャストで良かった。

セリアズの繊細さと芯の強さは、自身の生い立ちにも影がありかなり個性的なデヴィッド・ボウイでないといけなかった。それにしてもあの輝くような美しさは。。
あのハラ軍曹の屈託のなさは、たけしでしか表現できなかった。緒形拳や勝新では強過ぎる。
坂本龍一演じるヨノイ大尉の役を
友川カズキ…に至っては、全く違う方向に行っていたかも。。
デヴィッド・ボウイが食べられちゃうよ…笑

演技のプロでない彼らだからこそ、唯一無二の不思議な存在感が得られた気がする。

戦時中のインドネシア・ジャワ島の日本軍捕虜収容所での出来事が主な内容なので、戦争映画ながら戦闘シーンは出てこない。
また回想シーン以外、女性も一切出てこない。
大人の男だけの一種独特の世界、、なのである。

忘れてはならないのがロレンス(トム・コンティ)。
そう、イギリス人でありながら日本語にも日本の文化にも造詣が深い、この人の存在無くしてはこの話は語れない。
恐らく、日本人よりも日本人の感覚を理解できる外国人。
古くはラフカディオ・ハーン(小泉八雲)、そして近くだとドナルド・キーンがそうであるように。

大きく分けると
ヨノイ大尉×セリアズ間の愛情、
そして
ハラ軍曹×ロレンス間の友情
に似た感情の交流が今作の中心にあり、そこに日本と西洋(この場合イギリス)の文化の対比が加わり、物語が構成されているように思う。

ヨノイの2.26事件に参加できず、死にきれなかったという思い。
セリアズの、弟を裏切ってしまったという思い。
それぞれ、自暴自棄=死んでしまいたいという思いを抱えて生きている。
その似た者同士の思いが愛情としてぶつかり合った時。。それが、あのシーンに集約されるのではないだろうか。

ハラ軍曹とロレンスには共通点がある。それは、人の情に熱いということ。ハラ軍曹は一見、ヨノイの腰巾着のように見えるが、最後には潔く自分の意志を貫く。
ロレンスは自身も捕虜なのだが、日本人と捕虜仲間の間に入って日本人の言わんとすることを噛み砕いて伝えたり、日本人と西洋人の違いを日本人側(主にハラ軍曹)にわかりやすく伝えたりする役割を担う。

人と人とが出会って
その違いに気づく時、
その違いを認め合う時、
それはとても豊かな時間になるのではないだろうか。

戦争という尋常ではない環境下ではあったけれど、捕虜と管理する者という相反する立場ではあったけれど、人種や異なった文化を超えて人間同士が分かり合える瞬間があるのだと、今作は教えてくれる。

それが、あのセリアズとヨノイのシーン。
そして、ハラ軍曹とロレンスのラストシーン。

そこに行き着くまでに、様々な
軋轢、苛立ち、否定、恋慕、複雑な感情が行き交う。
中には差別的な表現や目を背けたくなるシーンも存在するが、心が洗われるような時間も決して少なくない。
そのエピソードのひとつひとつを書き出すとキリがないのだが、、
何度も反芻したくなる、とてもとても深くて美しい物語だった。


他にも、壮絶な死を遂げる金本役のジョニー大倉が印象的。
随分若々しい内藤剛志、内田裕也(最初全くわからなかった!普通にカッコいい笑)らが出演している。


坂本龍一の
Merry Christmas Mr.Lawrence
が秀逸。
やはり彼は只者ではない。。


日本人の精神を、ここまで明らかに客観的に描いた作品を私は他に知らない。
大島渚の世界観、素晴らしい。

「御法度」も観てみようかな。





以下、気になった言葉のMEMO


the seed and the sower

Japanese Side
日本人は助けを求めたりしない
何故、自決しない?
切腹
死んでお詫び
恥を知れ
行=怠惰を叩き直す
罪は必ず誰かが罰せられなければならない
八紘一宇

"Merry Christmas、Mr.Lawrence"



English Side
戦場では友情が芽生える
私は自殺しない
彼ら(日本人)は過去に生きている、神に近づく気だ
迷信を捨てろ
彼(捕虜長)は名誉を重んじる
個々の日本人を憎みたくない
ファーザー・クリスマス=サンタクロース
あなたは犠牲者
正しい人などいない

"セリアズはその死によって実のなる種をヨノイの中に蒔いた"
あーさん

あーさん