コータ

ディア・ハンターのコータのレビュー・感想・評価

ディア・ハンター(1978年製作の映画)
5.0
〈失われたもの〉
冗長ともいえる長尺が、唯一無二の強烈な映画体験を作り出している。
出兵前の70分、戦地ベトナムでの40分、帰還してからの70分の3部構成180分となっている。約3時間ある長尺のため、テンポ良いサクサク感はないものの、ゆったりと重みの感じられる構成になっている。


『神よアメリカを守り給え』
 
ペンシルベニアのロシア移民が多く暮らす街にて。作中ではロシアンルーレットが重要な小道具となっている。
冷戦下のアメリカにおいて、ロシア移民たちが苦しみを強いられたことは想像に容易い。リンダ(メリル・ストリープ)の父親の屈折ぶりからもそれが窺える。そんな彼らが米軍の一員として北ベトナム軍と対峙するということ。


何かが変わってしまった。
故郷への帰還後、旧友の明るい歓迎にも応えられない。鹿狩りに興じても引き金を引けない。昔のようにはいかない。

命ある以上、生きてゆかなければ。地に足つけて、強く優しくありたいと願う。
そうは願うけれども、大きく欠けた何かを埋めるのは難しいという悩み。

誰にも言えない、隠されし帰還兵の悲しみ。これは、悲哀と喪失についての物語。フィルムに刻印された悲しみを何度でも確認することができる。

テーマ曲のギターの調べに、失われたものへの哀を感じる。


監督マイケル・チミノの言葉一一
「考えを主張するための映画は作らない。人々の人生を語るための映画を作る」
コータ

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