次郎

8 Mileの次郎のレビュー・感想・評価

8 Mile(2002年製作の映画)
3.8
17年も前の映画ということでエミネム先生の若かりし頃…と思ったけど公開時の先生はもう30歳であり、デモテープで注目を浴び始めたのも25歳になってからと(今の感覚からすれば)実は遅咲きだったことを今更ながら知る。半自伝的ということでトレーラーハウスで暮らす出口無しな日常生活には先生にもかつては苛められてた面影を浮かび上がらせ、フューチャーの存在は彼のモデルであるプルーフが2006年に亡くなった時、先生にとってどれほどのショックであったのかを教えてくれている。OPとクライマックスで反転する演出含め、予想以上に作り込まれているなと思ったら監督は「L.A.コンフィデンシャル」のカーティス・ハンソンだったと知って驚き。

とはいえ、やはり本作の見所はクライマックスのMCバトル。エミネム先生の演技に関しては多少疑問符が付く箇所もあったが、バトル中の先生はもう眼力からしてバッキバキで最高にカッコ良い。特に決勝戦はMob Deff「Shook Ones Pt. II」のドープなビートに乗せながら、(1)客を盛り上げて一体感を演出することで、(2)乗らない相手を落とし、(3)自身の弱さをディスられる前にボースティングとして昇華し、(4)その上で相手の痛い所を付いた上で(5)最後にアカペラで「俺はホワイト・トラッシュ 文句あるか/俺のことなら勝手に言うがいいさ」とプロップスをも投げ打って〆る、という勝利のメソッドを最高にイルな韻とフローで魅せてくれ、なおかつ元曲の引用や先人リスペクトまで挟み込むという完璧な出来。

それにしても主題歌のLose Yourselfは久々に聴き返したけどやはり圧倒的にカッコいい。ギターリフを核とした曲の構成はヒップホップというよりロック寄りなんだけど、それに乗る先生のフローがとにかく気持ちいい。カラオケでの乗せ方を教えてくれた高橋君には感謝。また映画を観て改めて歌詞を目を通してみれば最初のヴァースは映画の世界感をそのままにライミングしているし、次のヴァース以降はその現実の先生自身の、成功から転げ落ちる恐怖と父親として失格なのではないかという葛藤も包み隠さず掃き出しながらも俺にはラップしかないと腹を括る、実にカッコいい内容に仕上がっていた。
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