サマセット7

魔女の宅急便のサマセット7のレビュー・感想・評価

魔女の宅急便(1989年製作の映画)
4.0
監督・脚本は「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」の宮崎駿。
原作は角野栄子の同名児童小説。
主人公キキと女性画家の一人二役の声優は、名探偵コナン役で著名な高山みなみ。

[あらすじ]
とある町で魔女の母親と普通人の父親の間に生まれた少女キキ(高山みなみ)は13歳になり、魔女になることを決意した者の伝統に従い、満月の夜、人語を解する黒猫のジジと共に修行の旅に出る。
ほうきに乗って空を飛び、たどり着いた港町を気に入ったキキは、その街を修行の地とすることを決めるが、街の人々はよそよそしく、宿すら確保できない。
途方に暮れるキキだったが、親切なパン屋「グーチョキパン店」のおかみ、オソノとの出会いから、やがてほうきでの飛行を活かして、宅急便を始めることを思い立ち…。

[情報]
スタジオジブリ制作の、1989年公開のアニメーション映画。
宮崎駿にとっては、6番目の長編映画監督作にあたる。

現在の世界的評価からは想像し難いが、天空の城ラピュタも、となりのトトロも、劇場公開時は興行的には失敗に終わった。
スタジオジブリ作品が、興行的にも成功を収めるのは、今作が先駆けとなる。

企画のスタートは、原作の児童向け小説の映画化プロジェクトであり、ジブリに企画が持ち込まれる前に、「宅急便」の商標を登録していたヤマト運輸がスポンサーについていた。
日本テレビも制作に参加し、過去にない強力な支援を得て宣伝がされた結果、今作は推定43億円の興収を上げ、当時のアニメーション映画の記録を塗り替えるヒットを記録した。

原作小説はシリーズ化されて6巻が出ているが、今作は第1巻を元としている。
とはいえ、魔女の基本設定や社会からの受け入れられ方など根本的かつ大幅な改変がなされており、ほぼ別物と言って良いようだ。

制作は比較的短期間で行われており、当初は後に「この世界の片隅に」の監督、脚本を務める片渕須直が監督を、「私をスキーに連れてって」の一色伸幸が脚本を務める予定であったが、諸々の事情から監督も脚本も宮崎駿が務めることになった。

今作は現在においても非常に高く評価されており、特に批評家からは絶賛されている。
制作に関与した日本テレビが放送する金曜ロードショーでは、概ね隔年で放映されており、世代を超えて愛されている、国民的なアニメ映画の一つである。

ジャンルは、ファンタジー。
ジュブナイル、お仕事もの、アドベンチャーの要素も含む。

[見どころ]
久石譲作曲のサントラの相変わらずのクオリティ!!!
そして、ユーミンの既存神曲二曲(「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」)の威力!!!
今作のもう1人の主人公、それは、キキのたどり着いた街そのもの!!!
ヨーロッパの街並みをミックスさせた、伝統と進取が入り混じる、美しい街並み!!!
少女の成長を繊細に描き出す、宮崎駿脚本の構成の妙に、唸らされる!!!

[感想]
久々に観たけど、思っていた以上の名作!!!!

とにかく、サントラがいい。
いちいち音楽が鳴るたびに、「良いー!!!」と打ち震える。
久石譲のスケジュール上、かなり忙しないスケジュールだったというが、それを一切感じさせない。

そして、街の風景が、どれも素晴らしく良い。
ヨーロッパ的なオサレ感というか。
今作は、キキが成長することで、街の人々に受け入れられる、という話である。
いわば、今作のキキのお相手は、街そのものと言ってよい。
この街、優れた美貌を誇り、なんとも魅力的なのだ。
しかも、相当のツンデレときている。
キキは、街に惹かれ、つれなく無視され、振り回され、ついに思いを遂げる。
今作は、キキと街のラブストーリーだ。

今作は、大きく前半と後半に分けられるが、前半の2つの印象的な「宅急便」エピソードが、後半に再び響き合う構成となっている。
キキの仕事への不安と期待、自信の喪失、自分や仕事と向き合う中で徐々に自信を取り戻す様子が、一つ一つ丁寧に描かれる。
ジジの受難!
ニシンのパイの顛末!!
その結果、クライマックスは、キキの成長と危機的事態の解決がクロスし、非常に感動的だ。

ジブリ作品の常として、アニメーションも躍動感溢れ、特に飛行シーンの数々はお見事。
特にお気に入りは、トンボとの自転車疾走シーンだ。
カーブ!!!最高!!

[テーマ考]
今作は、少女の仕事を通した人間的成長を描いた作品である。
宅配便の仕事を通した成長、というところがポイントで、人は日々の仕事を通してのみ、幸せになれる、という宮崎駿のメッセージが込められているように思われる。

他方、今作は、子供が大人になるうちに、失われていくナニカ、というものをも表現している。
そのナニカが、真に失われてしまったのかは、作中では明確にされないが、ハッピーエンドの中に、一抹の寂しさを感じさせるのは、意図的であろう。

[まとめ]
仕事を通した少女の成長を鮮やかに描いた、スタジオジブリのアニメーション映画の名作。
今作に登場する女性画家は、ジブリの短編アニメ「やどさがし」の主人公フキを連想させる。
かなり重要人物だが、キキと同じ声優が一人二役を演じているとは、驚きだ。
さらに、それが江戸川コナン役の同じ声優とは。
知って見返すと、また面白いかもしれない。