菩薩

魔女の宅急便の菩薩のレビュー・感想・評価

魔女の宅急便(1989年製作の映画)
4.2
カーディガンを袖を通さず首に巻く所謂石田純一スタイルを得意とする元祖鳥貴族眼鏡野郎コポリa.k.aトンボは、表向きは「飛行」倶楽部、その内実は「非行」倶楽部に所属しており、そんな彼が何故見習い魔法少女キキにあの様に声をかけたかと言えば、当然空を飛びたいからと言う訳ではなく、空をも飛んでいる心地になれる(飛ぶでは無くトブ)ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ(LSD)の入手を目的としている訳であるが、しかし薬の合成に長けているのは彼女の母親であり、飛ぶ事しか能のないキキに声をかけてしまったのは、残念ながらお門違いであると言うほか無い。しかしエンドロール終盤ではコポリの友人とグーチョキパン店のカウンター内で仲睦まじげに歓談するキキの姿が映し出されており、未だ非行倶楽部の面々は彼女の母親とのパイプを確保する事を諦めてはいないらしい。そんな鳥貴族の生命の危機に鬼気迫る表情で馳せ参じるキキ、今まさに地上に落下せんとする鳥貴族を片手一本で受け止める(そして嬉々として沸く群衆)その腕力は、既に推定30キロはある箱入りジャガイモを階段のみで上階へ運び上げるシーンで明示されており、そもそも幅5センチ程の箒の柄の上で常に姿勢を保ち続ける事が出来る体幹の強さからして只者では無く、まさしく彼女は魔物であると言わざるを得ない。

魔女の宅急便は労働の映画でもある。店番の代わりに得る住居、電信、朝食、そして労働で得る賃金。しかしたかだかちぎれかけたぬいぐるみの首元を縫って貰うだけの作業とハウスクリーニングは本当に等価値にあるのかと言う所に我々は一度たち帰らねばならないし、絵画のモデルとしてキキを長時間拘束した事に対し風船ガム5粒以上の対価を支払わないウルスラに対して、その支払いを求める権利があるのだと言う事を彼女に諭してやらねばならない。世の中には様々な職種があり人間にはきっと誰しも天職と言うものがある、薬剤師、掃除夫、警察、パン屋、ファッションデザイナー、家政婦、飛行士、そして運送業者。クロネコヤマトが業界有数の大企業に成長したのは真面目に職務に取り組んで来た信頼と実績の証であろうが、アリさんマークの引越社が赤井英和共に見かけだけ大きくなったのは、そこで働いている(いた)労働者からの搾取の結果であると言う事を忘れてはならない。オソノ女史の庇護の下、労働に喜びを感じ、落ち込む事もあるけれど、その街を愛し、そして元気でいられる内は良いのだが、彼女の様に頼まれたらNO!と言えないタイプの人間は、この社会では兎角生きにくい。そうなる前に、無念ではあるがあのメガネ野郎に恩を売り深い絆で結ばれ、まずは最低限の玉の輿を確保しておくのは得策と言えるのかもしれない。とりあえず猫にあれだけの量の牛乳を与えると酷く下痢することだけは覚えておいて欲しい。おそらく劇中で一番知能指数が高いのはジェフ(犬)。