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大阪の宿のENDOのレビュー・感想・評価

大阪の宿(1954年製作の映画)
4.5
佐野周二演じる三田がクローニン『星は地上を見ている』を机上に積んでおくと乙羽信子演じるうわばみは彼を星に喩える。その恋心が浪漫へと転じない。貧しさの中に善を見出そうとする主人公も所詮ブルジョアなのだが、その優しさが救いになっている。酔月荘の女中おりか、おつぎ、お米、そして女将。それぞれお金に翻弄され窮地に立たされる。現実主義者のお米は左幸子が演じ、その逞しさは『幕末太陽傳』や『にっぽん昆虫記』で顕著になる。このサッパリとした人間の業に為すすべなし。ちょっとした善意も解決にはならない。出色なのは、この貧困の業を最も背負った若く美しい安西郷子演じるおみつの存在だ。多々良純演じる野呂に身体を許し、父すらも失う。父が座ったまま亡骸と化した姿に陰が落ち、内職のヒヨコが歩き回っている壮絶さ。ブニュエルへと近づく異様さ。三田の送別会の不在の座布団の痛々しさ。最期には働く姿の美しさ。乙羽信子も清濁併せ呑むもやはり一人の女として一途に惚れている姿に涙。三田が街で見初めた麗しき女性も近づいたと思ったら、自身の会社による陰謀によって暴力的に引き裂かれる。絶望して三田という星は地上に堕ちてしまう。東京へと転勤になってしまうのは哀しい。朝鮮特需の裏で辛酸を舐めつくした人々はこの先加速的に軍産複合体企業による拝金主義で埋め尽くされる日本を想像できただろうか?
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