イチロヲ

櫛の火のイチロヲのレビュー・感想・評価

櫛の火(1975年製作の映画)
4.0
亡き恋人の形見である櫛を持ち歩き、自己喪失に苛まれている青年(草刈正雄)が、夫(河原崎長一郎)の愛憎に怯えている年上の夫人に惹き寄せられていく。古井由吉の原作を映像化している、エロティック・ドラマ。

4人の男と関係をもつ2人の女の間に、宙ぶらりんの青年が挟まれてしまう。夫人(ジャネット八田)の境遇と、亡き恋人(桃井かおり)の回顧録を重ね合わせながら、「男と女がやること(=人間らしさ)」を描いていくスタイル。

ブランコで蹴られながら問答して、口琴代わりに輪ゴムを鳴らして、体温計を口移しして、うめき声と共に夫人を追い掛ける。演者が自分の意志で動き回り、リップシンク無視のアフレコで、ひたすら喋りまくる(セリフを噛んでも気にしない)。

心と身体の乖離現象がドラマ内で肥大化しているため、もはや笑っちゃうレベルの乱反射劇場が展開される。「人と接するのが怖いけれど、どうしても身体が欲してしまう」という普遍的心理を体感しながら、一喜一憂すべし。
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