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密航0ラインのnetfilmsのレビュー・感想・評価

密航0ライン(1960年製作の映画)
3.7
 日夜競争を繰り広げる2人の男は偶然街中で出会い、連れの女と3人で食事に行かないかと声を掛けるが丁重に断られる。当然だ。極東新聞の香取(長門裕之)と日東新聞の仁科(小高雄二)は大学時代の親友ながら、今はライバル誌の記者として激しく競り合っていた。2人は戦後最大の国際密輸組織“香港-東京0ライン”の謎に迫ろうとしていた。飄々としたスタンスで、次々にスクープをモノにする香取。女にだらしなく汚い仕事でも厭わず、警察とも内通している男はいつも仁科を出し抜き高笑いしていた。一方の仁科は真面目一徹が取り柄の堅物だが、それだけしか取り柄のない男だ。

  新聞記者の使命は真実に迫ることだが、今作ではどちらが先にスクープをモノにするかがカギだと言わんばかりに、スピードこそがアクションの起爆剤となる。冒頭繰り広げられる麻薬密売ルートへの警視庁のガサ入れ。暴力を交わしながらスクープを狙う記者の背中に肉薄する仁科をひらりと交わす香取の姿。同様に情事の余韻に浸る女の隙を狙いやって来たガサ入れに為すすべなく散る佐伯玲子(中原早苗)の表情。まるで手品の種明かしのような香取の鮮やかな手際に清順の腕が冴え渡る。

 兄を自死へと追い込み、散々弄ばれ捨てられた玲子の復讐は考え得る最高のものと云えよう。どんな女ったらしでも母親と妹には迂闊には手が出せない。妹が拉致された瞬間の香取の焦燥を物語るような、極めて大胆なクロス・カッティングの行間にべっとりとこびり付いたエロス。これが1960年製作の映画だと言うんだから、清順の手腕は見事という他ない。中盤に売春婦役で登場した初井言栄の存在感も素晴らしい。香取のしばしの退場を含む脚本にはやや粗が見られるものの、黒幕の前には常に怒りを嚙み殺すような女の情念が滲む。ラストの退場する車と登場する車の絶妙なタイミングには痺れた。
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