Jeffrey

ミスター・ソウルマンのJeffreyのレビュー・感想・評価

ミスター・ソウルマン(1986年製作の映画)
3.5
「ミスター・ソウルマン」

〜最初に一言、現在では間違いなく差別的だと言われ封殺される陽気で愉快で、チャーミングな目覚めるコメディ映画だが、風刺のきいた演技や人種問題の冒険と新しいタイプの社会派コメディが生まれた80年代最後の行き過ぎ喜劇映画の代表格だ。そして全編に流れるソウル全10曲は、主題歌のソウルマンを歌うルー・リードとサム・ムーアを筆頭に、60年代に活躍した人気デュエットグループなどが参加していて、耳でも楽しめる1本だ〜

冒頭、名門ハーバード大学に合格した青年。父親から学費援助を拒否される。白い肌を黒く染める。そしていざ奨学金を手にする。親友の存在、キュートな黒人女性、白人音楽と黒人音楽、パーティー。今、彼のドタバタな日常が写し出される…本作はスティーヴ・マイナーが1986年に監督した、見た目は黒人、中身は白人こんなハーフって有り?的映画でセンセーションを巻き起こした笑撃コメディーで、当時も結構話題になったが、今こんな作品作ったら差別主義などと大騒ぎになるだろう。実際にSaturday Night Feverだったか何かそういったテレビ番組でエディ・マーフィが白く塗って、バスに入っていく番組があって、結構話題になったって言う話を聞いたことがあるんだけど、それと似ているような感じ。フランシス・フォード・コッポラ監督作の「アウトサイダー」の主役で人気を博して2012年「アメイジング・スパイダーマン」では円熟の存在感を見せてくれたC・トーマス・ハウエルが主演を務めており、お調子者の青年によるドタバタ騒動を笑いのネタにしつつ、人間の心が作り出す社会問題と向き合い、ソウルフルな音楽で見事にコーティングした心温まる学園ラブコメディーである。

この度、BDにて久々に鑑賞したけどやはりこの時代のこういった作品は面白い。ただアフリカ系の人からすれば、胸くそ悪いんだろうけど、こういった悪気がない発想でやってる分には好みの観客もいると思う。だが、ニューズウィーク誌では不快な内容の駄作として叩かれたみたいだ。これらの抗議や批判があったにもかかわらず、この映画は興行面では成功した皮肉さ、そりゃ楽しければみんな劇場に足を運ぶだろう。この作品パラマウントピクチャーズから廉価版で発売されたのを昔購入したんだけど、1989年の火曜ロードショーで吹き替え版があるはずなのに、収録されてないのが本当にショック。このようなコメディー映画は吹き替えで見るのも非常に好きなので、本当に吹き替えを入れたバージョンで発売してほしい。マイナー監督と言えば「13日の金曜日part 12」part3や「ガバリン」「ハロウィンH2O」等を監督したホラー映画を作り出す監督として有名だろう。

今思えば、この作品のプロデューサーのスティーブ・ティッシュはテレビの両面で質の高いフィルムを制作することで定評があったと思うのだが、やはり彼の中で1番有名なのはトム・クルーズ主演の「卒業白書」であろう。既にそこから青春映画における力量がうかがえる。「卒業白書」に出ていたレベッカ・デ・モーネはすごく好きな女優だ。今となっては全く映画に出なくなってしまったのが残念だ。それと「スター・ウォーズ」三部作でのダースベイダーの声で忘れがたいベテラン俳優ジェームズ・アール・ジョーンズがバンクス教授役で出演しているのも見逃せない所だ。とにもかくにもホラーコメディーも作っている彼の、全編に流れるリズミカルなソウルサウンドに乗せて贈る青春映画の傑作と言っていいだろう。前振りはこの辺にして、物語を話していきたいと思う。

さて、物語は南カリフォルニア大学4年生のマーク・ワトソンは、金にも女にも車にも不自由ないリッチなリッチな22歳。しかも、ルームメイトのゴードンとともにハーバード大学法学部に合格して将来へのパスポートも手に入れている。ところが、マークの裕福な両親が突然マークの進学には金銭的援助をしないと言い出した。マークとゴードンは必要となる53,000ドルを稼ぐためにあらゆる手段を試みるが、いずれも失敗。絶望のどん底に沈む彼らの手にはロサンゼルス出身の黒人学生にだけ適用される奨学金制度のパンフレットがあった。そんなある日、ゴードンが朝のジョギングをしていると、彼の邪魔をする変な黒人が現れた。ゴードンが逃げようとすると彼の名を叫ぶではないか。それもそのはず、その妙な黒人はスーパー・タニング・ピル(スーパー日焼け薬)で黒くなったマークだったのだ。

ハーバードでは誰もがマークを黒人とみなした。ゴードンとケンブリッジのアパートメントを借りるが、そこの管理人はマークの肌の色を嫌がった。オーナーのダンバーは彼にマークを立ち退かせる理由を集めるよう命じた。黒人狂いの娘、ホイットニーが隣の部屋に住むからだ。大学の歓迎会は才能あふれる若者ばかり。中でも美しい黒人学生サラは目を引いた。幸運なことに彼のとった刑法の授業ではマークの席はサラの隣である。しかし、教授のバンクスは言い訳を許さぬ厳しい黒人で、お互いに黒人だからと馴れ馴れしい態度をとったマークを叱り飛ばした。ソウルマンするのには格好から決めなくちゃ。マークは黒人法学生会にアーミールックで出席してサラをさらにうんざりさせてしまう。だが、隣の部屋のホイットニーはマークに気があるみたいだ。彼女の誘いに乗って早速ベッドインを果たすが。

大学でバスケットボールの対抗試合が行われた。誰もが自分のチームにマークをほしがった。ところが、蓋を開けてみるとなんという運動オンチ。皆は運動オンチの黒人に驚く。マークは相変わらず彼を嫌がるサラを説得して図書館で一緒に勉強することにした。だが、しつこいホイットニーが現れて、ぶち壊しに。マークの償いにもかかわらず、サラは遠のいていく。ある日、マークは運転中、警官に全く理由もなく止められ、牢屋にぶち込まれる。留置所の酔っ払った白人ソフトボールチームの一団に散々殴られると言う信じられないようなひどい目に合う。おかげでバンクス教授のクラスに遅刻し、大切なレポート提出もできなかった。バンクスはマークの言い訳を聞こうとせず、彼のレポート提出日を伸ばし、マークはそれに立派なレポートで答えた。

マークはサラには幼い息子ジョージがいることを知る。彼は大事な期末試験のため、一緒に勉強することを提案し、2人の間に新たな友情が生まれるのを感じた。マークは、実はサラがサンディエゴ出身で、彼がいたために本来、彼女が受けるべき奨学金を受けられなかったことを知った。サラへの罪の意識に悩む最中、彼はバンクス教授から学生司法協会の一員になるよ誘われる。アパートメントに戻ると、ホイットニーがセクシーな下着姿でベッドに横たわっていた。サラがもうすぐここに勉強しに来ると言うのに。その時、不意に両親がLAからやってきた。大ピンチ。マークは何とか一同を合わせまいと頑張るが、両親に黒い顔を見られて失敗。両親はあまりのことに失神…サラは何も言わず去っていった。

クリスマス休暇が終わり、学生司法会が開かれた。冒頭、ゴードンはある学生を力強く紹介した。その学生とはそう、白人のマーク・ワトソンのことだ。マークはバンクス教授に、今までにもらった奨学金に利子をつけて彼女に返すこと、黒人コミュニティのボランティアをすること、将来、自分が成功した暁には彼女の名前で奨学金を設立することを誓った。そして、彼はハーバードに残ることが許された。商店で働くマークの前にサラとジョージが現れた。彼女の表情は以前険しい。彼らがいるのを知っていて黒人を嘲るジョークを飛ばす2人のプレッピーに今まで我慢していた怒りが爆発、マークは2人を殴る。彼はその場を飛び出した。どうすれば彼女に自分の気持ちを伝えられるのか。

校舎の入り口でマークはサラとジョージがまるで彼を待つかのようにしているのに会う。マークを見つめるサラの顔にはもはや怒りの表情はなかった。マークは今度こそ、本当のソウルマンになったのだ…とがっつり説明するとこんな感じで、この作品はニューヨークで興行成績ナンバーワンを記録し、全米でもバラエティー誌に初登場3位で始まり、上位ランキングを続けていたそうだ。ハーバード大学に入学するために白人青年が黒人に紛争すると言う一見シリアスな題材を軽快なタッチで陽気に描いた全く新しいタイプの青春コメディーと言っていいだろう。南カリフォルニア大学(USC) 4年のマークとルームメイトのゴードンは2人揃ってハーバード大学法学部に合格する。しかし、その輝かしい未来がマークの父親が突然経済的援助を打ち切ると言い出したことにより打ち砕かれようとしている…金を借りることも父親を説得することもできなかった彼は、最後の手段に薬品で肌を黒くして黒人学生のための援助金を得る。

黒人として入学したハーバードで厳格なバンクス教授の刑法の授業とったマークは、聡明で美しい黒人のクラスメイト、サラに夢中になる。マークは自分の戦略がサラが受けるべき援助金を奪ったと知って心を痛める。このジレンマを、彼は皆の前で人種的偏見を諷刺し心温まる方法で解決していくと言うのが物語だ。主人公が何かの目的で別の人間になりすますが、その人間になったことで次から次えとおかしな冒険に巻き込まれ、それらの体験を通じて別の人間たちへの理解と愛を深め、自分自身も変わっていくと言う雪だるま式コメリはシドニー・ポラック監督、ダスティン・ホフマン主演の大ヒット作「トッツィ」が記憶に蘇る。本作はとりわけ主人公マークが接する登場人物一人一人のキャラクターがユーモアたっぷりにバランスよく描かれており、彼の冒険は単なる笑いではなく軽い爽やかなものとして見るものに感動与える。

白人と黒人の2人のマークを演じたハウエルは初の主演作「アウトサイダー」で批評家に認められ、その後ジョンミリアス・の「若き勇者たち」に母国を守るために戦う高校生役で主演している。確か彼はルトガー・ハウアー扮する殺人鬼に追い詰められる犠牲者を熱演していた「ヒッチャー」と言う作品にも出ていたと思う。いゃ〜、冒頭のシーンから流れるマディ・ウォーターズのI'm Your Hoochie Coochie Manが渋い。太い声が堪らない。しかも自宅のパーティーで流れるModelsのEvolutionもめちゃくちゃハマって聴いてたな若い頃。この映画で、奨学金を獲得するために、大学時代を全て黒人の変装で生活しなきゃいけないって思うと、俺にはそんなことができない。まずめんどくさいし…偽りの人生だし…。しかも、彼は白人と黒人の社会的ギャップの激しさ、偏見の根強さを思い知ることになる。やはり人間ていうのは異性から学ぶものが1番大きいのではないだろうか。

彼女との間に芽生えた愛をいかに育てているか、そういったのもこの映画から汲み取れる。そういえばその黒人女性のサラ役の女優は、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の7コマンドー」に出てきた。誘拐された愛娘を取り戻したさに暴走するヒーローにぴったりと寄り添い、しっかりお役にたつおてんばスチュワーデス役が印象に残る。ウーピー・ゴールドバーグ主演のスピルバーグ監督の「カラー・パープル」にも出ていたな。この映画が印象的だったところに、黒人に変装した主人公の前に、白人2人が黒人に対して笑い話をしているのを見て、黒人の思いになったシーンと、バスケットのクラブ活動の時に黒人にふんした主人公を欲しがるキャプテンたちが、実際に試合をするとへたくそで驚いてしまうと言うところは、いかにもステレオタイプな人たちの考えだなと思った。さて、ハーバード大学と言えば1636年の成立以来、John F. Kennedyやキャッシンジャーといった超大物を輩出してきたアメリカ最古の名門私立大学である事はご存知の通りだ。

マサチューセッツ州ボストンのそばケンブリッジ市に位置する。ハーバードを舞台にした映画で印象深いのは「ある愛の詩」。美しく格調高いキャンパスで愛を語る2人の姿に世界中の若者が憧れたのは今を生きる50代の男女には思い出があるのではないだろうか。今回は、USCの大学生がハーバートへ行くと言うことで西海岸の学生たちと東海岸の学生たちのライフスタイルや服装等の違いが興味深く描かれている。ハーバードは現在、全米でも資産家やメーカーの子供たちが多く入学する大学であったので黒人学生は珍しく、主人公マークが申請した奨学金制度が黒人や少数人種にしか適用しないと言うのも頷けるのではないだろうか。撮影はハーバードのキャンパス周辺で行われるからすごくリアリティーがあった。

ちょっと余談だが、当時のアメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンが、昔俳優であった事は周知だが、その息子ロン・レーガンもまた役者への道を歩み出したらしい。そのロンと言えば、この映画の昨年に、長年活動してきたバレエダンサーのキャリアを捨ててジャーナリストに転向したのだが、米ソ首脳会談の席に乗り込もうとして問題を起こしたそうだ。その様子をプレイボーイ誌の彼のコラムに書いていると言うちゃっかり者だったそうだ。甘いマスクで全米の女性からモテモテなのだが、今回のスクリーンデビューもまずまずの評判を得ていたそうだ。話を映画に戻すと、本格的なコメディー初挑戦となったトーマス・ハウエルは、黒人になった気分をまるで違う惑星に行ったみたいだとインタビューで語っていた。その黒人になるのが大変な苦労だったらしく、1日12時間も黒いドーランとアフロヘアーのカツラをつけなければならなかったのだ。しまいには、鏡に映った自分の黒い姿を見ても驚かなくなり、自分は黒人になったら白人の役をしているのだと自分自身に言い聞かせたと言う(笑)。

さて先ほど少し音楽について話したと思うが、この作品はビーチボーイズからオーティス・レディングへ、心も体もソウルフルに耳でも楽しめる1本になっている。60年代に活躍した人気デュエット・グループ、サム&デイヴの片割れがサム・ムーアであり、ここで歌われるソウルマンはサム&デイヴ自身の67年の大ヒット曲であり、彼らの代表曲と言うのはブラックミュージック好きな方なら知っていると思う。一方、ルー・リードは60年代後期に活躍したベルベット・アンダーグラウンドのリードシンガーである。70年よりソロにぬり、確かジャパンエイトにも参加していたんでわ…?!そしてもう一つの話題は70年代のファンクマスター、スライ・ストーンのカムバックである。彼は、この映画で2曲歌っているが、1曲はモーテルのリードシンガーとして知られるマーサ・デービスとのデュエットだ。このマーサとスライと言う組み合わせも意表をついたものだ。

他にブレンダ・ラッセル、オーティス・レディングら有名アーティストのHIT NUMBERが流れる。主演のレイ・ドーン・チョン自身もブラックガールズで歌手としての力量を見せている。黒人狂いのホイットニーがマークの部屋でビーチボーイズのレコードを見つけて不思議な顔する件など、肌の色と音楽の微妙な関係が巧みに利用されていると音楽好きの中では語り草になっているみたいだ。音楽監督はジャズ界の有名どころのスイート・サラを歌うトム・スコットである。なかなかテレビをしたが、まだ見てない方は頭を空っぽにして見れる超呑気映画なのでいちど試してみては。
Jeffrey

Jeffrey