紅孔雀

秋刀魚の味の紅孔雀のレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
5.0
巨匠小津安二郎監督の遺作。それにしてもこれを撮った時が59歳で翌年逝去。今なら早逝と言ってもいい年齢でした。勿体ない。
娘を嫁にやる男やもめの心情を、細やかに綴った日本映画の至宝。この難しいテーマを見事に描き切った小津監督の演出力に改めて舌を巻きます。匂うが如き娘・岩下志麻、おきゃんな兄嫁・岡田茉莉子という女性陣に加え、長男役に佐田啓二という豪華美男美女のオンパレード。一見地味に見えて、大いに観客の目を楽しませてくれます。オズの魔法使い(!)だけあって、虹の彼方に素敵な夢を見させてくれました。
そして、なんと言っても笠智衆!
まるで演技をしていないような老優の佇まいが、本編を支えます。いや、と言うより、彼がいなければそもそもこの企画が成り立たない、という唯一無二の存在です。娘の婚礼の日の彼の後ろ姿に思わずもらい泣きしたのも、その自然体の演技故でした。日本でしか生まれない不世出の名優だと思います。
PS: 私的な思い出をひとつ。笠智衆氏はそのむかし、私の実家の近くに住んでいて、銀行員だった私の父のお得意先でした。父がその印象を「映画と同じ雰囲気で、全然俳優らしくないんだ」と言っていたのを懐かしく思い出します。
紅孔雀

紅孔雀