菩薩

秋刀魚の味の菩薩のレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.5
小津安二郎の遺作。小津が一貫して取り組んできた婚期の遅れた娘と、老いと孤独がテーマの作品。

家庭における意思決定権はもはや男性になく、彼岸花同様鮮烈な赤に身を包んだ岡田茉莉子はずけずけと佐田啓二の頭上を飛び越えていく。

婚期を逃した娘に未だに依存し、かつての体面もどこで失くしてしまったか、今や呑んだくれのみすぼらしい老人と化したかつての恩師に、自らの先の人生を見る父。

トリスバーではかつての部下と軍艦マーチを肴に一杯、それもラストでは、悲しいかな侮蔑の対象とされてしまう。

もはや社会の主権は男性になく、かつ女性に依存する事によって罷り通ってきた男権社会に対する惜別と反省(あそこで杉村春子を泣かせる小津はずるい)、戦中戦後世代の哀切を喜劇味の中に映し出した名作。秋刀魚の味の意味するものは何か。幾たび見られる苦々しい男性陣の表情がそれを物語る。個人的には秋刀魚の「あし」の速さを、娘の婚期になぞらえている気もしている。岩下志麻の美しき花嫁姿は、それだけでも観る価値有り。