BOB

秋刀魚の味のBOBのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.0
日本映画を代表する名匠小津安二郎の遺作。

「結局、人生はひとりぼっちですわ。」

これぞ昭和の名作。どこを切り取っても、美しく、温かく、懐かしい。小津映画はいつも、古き良き日本の心を思い出させてくれる。

若さと老い、夫婦生活をテーマとする、妻に先立たれた初老の父親と24歳の一人娘による父娘ドラマ。『晩春』や『麦秋』と同じく、娘を嫁にやる父親の姿が情緒豊かに描かれている。父親が娘を嫁にやるのやらないのというのは、時代を感じさせる話ではあるが、それも全部含めて昭和の人間の心を感じることができる。

小津映画独特の日本語が美しい。古き良き昭和のお茶の間風景や小津スタイルの撮影・カット割りも相まって、何気ない会話シーンでもどれも魅力的に映る。

初老の男3人組による酒の席での掛け合い。一人娘を嫁に出さなかったことを後悔するラーメン屋店主"ひょうたん先生"のエピソード。マクレガーのゴルフクラブ一式の購入をめぐる、兄夫婦の問答エピソード。どれもユーモアと人情味溢れるものばかりで心が和む。

「なんで日本は負けたんですかねぇ。」「負けてよかったじゃないか。」
小津監督を含め、実際に戦争を戦った世代の人々には、戦後年経とうが、日本が戦争に負けたという事実が深い心の傷として確実に残っていることがひしひしと伝わってくる。酒を飲みながら"軍艦行進曲"♪を口ずさむ笠智衆から滲み出る哀愁が凄い。

昭和の名優たちの演技にも魅了される。器量の良い一人娘を演じた岩下志麻。花嫁衣装姿は、思わず息を呑むほど美しかった。安全安心の笠智衆。東野英治郎の酔っ払い演技。お嫁に行かせてもらえず"婚期を逃した"女性を演じた杉村春子。皆、印象に残った。

昭和ロマンを感じさせるポスターや看板に心惹かれる。洋服と和服。伝統的な日本家屋、トリスバー店内の雰囲気。電車。工場風景。トリス、サッポロビール。

ふと思ったことだが、WKW監督『花様年華』の建物内の奥行きを強調した撮り方は、小津作品に何となく似ている気がした。

199
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