砂場

ナッシュビルの砂場のレビュー・感想・評価

ナッシュビル(1975年製作の映画)
4.7
若い頃以来、超久しぶりの鑑賞だが、感じ方が全く異なるなと自分でも驚いた。まあ自分も歳を重ね世界も大きく変化した、アルトマンの描いたものはその時代なりに新鮮な意味を持って見ることができるのでやっぱり流石だなと。
昔見たときはアメリカの影の部分をブラックユーモアで包んでニヤリとさせられた。クッソダサいカントリー、しかもロックが盛り上がり始めている60年代においてクッソダサいカントリー歌手が登場する。ゴスペルと共にピルグリムファーザーズの伝統を”保守”する音楽でありロックやソウルの自由さがシーンとして出始めているのだけどロックもソウルも本作にはでてこない。
昔見たときはアメリカに陰りが出てきてる時代にもかかわらず未だに過去の古き良きアメリカにすがりつく滑稽な人々を描いた群像劇と見ていたのだけど今見るとその滑稽さを笑えないことに気づいた。
彼らはロックもソウルも聴かないアホな愚民なのであろうか?
彼らは現在ではトランプを支持するかもしれない。トランプがいかに愚かだとしても(まあ実際そうだ)、それを支持する彼らを愚民と言い切ることは正しいのだろうか?

そう考えるとラストの衝撃的な場面、、、惨劇を前にしてもみんな歌え歌えと叫ぶカントリーの大御所と、半泣きでゴスペルを歌う人々。
ここはニヤリと笑う場面なのだろうか?正直いうと昔はそう見ていたのだが、今回見るとものすごく感動してしまった。

ある文脈での政治学者白井聡の”愚民”発言には心底呆れたのだが、カントリーやゴスペルを歌う”愚民”の気持ちにもっと寄り添うべきだし、その構造をもっと見通すべきだろう。
アルトマンが偉大なのは、監督本人の意図はともかく2019年の今でも存在する”愚民”を非常にリアルな手触りでを描き出したことだろう。
それはドアーズを引用したコッポラのようなインテリには持ち得ない視点だったのかもしれない
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