kazマックスグローバーレッド

波止場のkazマックスグローバーレッドのレビュー・感想・評価

波止場(1954年製作の映画)
3.7
1950年代、ダルトン・トランボが頑なに口を閉ざして赤狩りから仲間を守ってた頃。そもそも共産主義とは人々の平等の為にあるもんだと信じていたものが実は自由を奪う非常に恐ろしいものだったと気付いて幻滅した『波止場』のエリア・カザン監督は政府の圧力に屈して仲間を売ってしまった。そして赤狩り騒動が間違っていたものとされた時代になるとハリウッドで「裏切り者」のレッテルを貼られてしまったカザン監督。50年代のハリウッドって何が正義で何が悪だか混沌としてた時代だったんだなぁ。


映画『波止場』では港湾労働者を仕切るギャングの下働きをしながら反発する者をシメる落ちぶれた元ボクサーのテリーが、ある殺人事件をきっかけに「本当に闘うべき相手は誰なのか」と自分のやってる事に疑問を持つ。「自分はゴロツキじゃない事を証明する」

腐敗した港湾で殺人が行われて、犯罪調査委員会の公聴会に招集された証言者が次々と殺されていても皆は沈黙する。そんな中、これまでの愚行を悔いてギャングの悪事を証言する主人公を英雄として描いている。現実では仲間を売る証言をしてしまったカザン監督、複雑な思いがあったんだろうな。


エリア・カザンの『波止場』でボクサー崩れの男が自分はゴロツキじゃない事を証明する為に闘う話と、ダルトン・トランボの『黒い牡牛』で倒れても立ち上がり最後まで諦めずに闘う話をヒントに生まれた作品が『ロッキー』で、赤狩りに翻弄された対象的な2人の作品がスタローンに影響を及ぼしてるって、映画の歴史は奥が深いものです。


補足 : ちょっと気になったセリフ。元ボクサー役のマーロン・ブランドに「今の体重は?ボクサーのお前が76kgの時はよく動けて素晴らしかったよ」と聞くシーンがある。79年の『地獄の黙示録』ではラストに北ベトナム軍と大銃撃戦のアクションを予定してたのに太り過ぎのマーロン・ブランドは現場で動けず。急遽、小難しい哲学的で静かなラストに変更された。「波止場の頃のお前はまだ動けてすばらしかったよ」って言ってあげたいです。