むさじー

男の顔は履歴書のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

男の顔は履歴書(1966年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<戦後日韓のタブーに切り込んだ人間ドラマ>

映画の冒頭に「この映画は敗戦後の混乱を描いたフィクションであり、民族間対立のない平和な未来を願う」という趣旨の文章が流れる。
単に民族間抗争劇にせず、被虐者側の苛立ちと絶望という根深い問題を露わにし、そこから正邪善悪だけでない人間のドラマを作ろうとしている。
戦後の闇市マーケットをめぐる、在日朝鮮人と日本人の争いが描かれているのだが、日本名を使って従軍した戦時や、韓国名では肩身が狭い現状、根強い被害者意識など、日韓の深く重いテーマを前面に押し出している。
これは脚本・星川清司の仕事のような気がする。
星川は小津を師と仰ぎ、大映では雷蔵・三隈研次・星川でトリオを組み『眠狂四郎』シリーズを作っていて、’89年に直木賞を受賞後は作家専念の生活に入っている。
タブー視されていたテーマに取り組む難しい仕事だったろうという気はする。
まずは安藤というスターが主演する娯楽作という前提があり、ベースとなる任侠映画のパターンの中に、テーマである民族間の軋轢と、観客が求める悲恋のドラマを加えたという印象がある。
また、崔や李恵春(俊次の恋人)という善良な三国人を登場させるあたりに、問題作となることを避けようという意識が働いているようにも思える。
制作趣旨として「未来志向」「和解志向」を挙げているが、現実を直視し、正面から描いた、骨太なヒューマンドラマになっている。
なお、加藤泰が初めて松竹で撮った作品で、内容が異色なだけに、加藤泰らしい映像表現は極力抑えられている。
むさじー

むさじー