幕のリア

どん底の幕のリアのレビュー・感想・評価

どん底(1957年製作の映画)
3.8
ここだけの話、初見です…

呆気に取られ途中失神もしましたが見終えてからジワジワジワジワ。
スクリーンでなければ確実にタップもせずにリングアウトだったろう。

実に戯曲らしい閉鎖空間の群像劇。

崖下に棟をなす長屋はどこもかしかも垂直と水平から見放された遠近感も惑わせるような完全なる不完全がもはや美しい。

流れ者部落の長屋に少し前に流れ着いた職人夫婦。
場違いに仕事に勤しむ旦那と病に冒される嫁ハン。
左卜全演ずる一見人の良さそうなお遍路さんの風体をした老人が宿を取る。
嫁はんの病は重くなる一方。
酸いも甘いも知ったる老人の優しい言葉や思いやりのある行動。
この掃き溜めにそんな甘っちょろい思考が必要なのか。
冥府とこの世を繋ぐ死神か悪魔か。
混沌をもたらす神なのか。
死、諍い、争い、殺し、混沌の後に老人は姿を消す。
種明かしは、後ほどゴーリキイで検索をしてみよう。

ハレの場には音楽と舞踊が不可欠。
ボイパにヒューマンビートボックス、キレッキレのチャンチキダンス。
テレビもレコードもろくに無い昭和32年。
鈴なりの劇場で踊り出す酔っ払いやガキの姿が目に浮かぶようだ。
今見るとお寒いギャグやコールやムーブ。
恐らくここから始まり擦られ擦られ過ぎたからであろう。

聞き取れない台詞の数々。
ドラマの対極にあるかのようなカオス。
笑いや歌謡のエンタメ性。
昨今のテロップ付きのバラエティ番組なぞで脳が退化せぬよう感性を鍛えておこう。

山田五十鈴のメドゥーサのような強い眼力が圧巻。

2018劇場鑑賞28本目
幕のリア

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