ちろる

どん底のちろるのレビュー・感想・評価

どん底(1957年製作の映画)
4.0
人と人はなんで出会ったのか、どうしてこんな風に出会ったのか偶然のような事が積み重なっているけれど果たしてそれらは偶然なのだろうか?
自分の今の境遇も、出会った人たちと実は全て決められていて意味があるのかもしれないとふと考える時がある。
小さなきっかけで人と人が出会いその事が人生を180度変化させてしまうこともある。
この長屋の住人たちはなぜここで、このような形で肩を寄せ合うことになったのだろうか?

現代でいうとシェアハウス的な。
でもそんな洒落たものではもちろんない。
江戸の町の底辺の底辺の簡易宿泊所。
町の子供たちは彼らの住む長屋にゴミを捨てるような庶民の人々の生活を切り取ったユニークな黒澤作品。
マクシム ゴーリキーの戯曲を基にしたものらしい。
三船敏郎&志村喬コンビではないことも、三船の登場シーンが少ないのも黒澤作品として珍しい作品。

こんこんちくしょーこんちくしょー♪
地獄の沙汰も金次第
てんちきてんちきてちきちき♪

そうやって踊って歌って酒飲んで、
アル中の役者、鍛冶屋と死にかけた女房、桶屋、飴屋、そして泥棒なんかも共に生活している傾いたボロボロの長屋に住む。
恥も外聞もとうの昔に捨て去った人間たちのむき出しの会話が生き生きとしてユニーク。
自堕落で楽天的なのが見ていて気持ちがいいほどだ。
喧嘩もしょっちゅう、人の生き死にもあまり感心のないような長屋の連中とは少々異なるのが左卜全さんが演じるお遍路じいさん。
まるで聖職者のように周りに流されず、押し付けがましくもなく相手を諭したり、癒したりする姿には思わず手を合わせたくなるほど神々しい。
彼が皆に悟った言葉たちと、対比してラストの展開はやはり容赦ない。
こんこんチクショー こんちくしょー♪
現実逃避の明るさと現実へ悲観する対比がこの歌のお陰でいい仕上がりになっている。

ワンシチュエーションで、長回しの多い舞台劇に近い作品なので、登場人物の会話にしっかりと耳を傾けるしかないが、ちょっと早口なのでなかなか聞き取りにくい。
しかしながら臨場感たっぷりの山田五十鈴さんVS香川京子さんのプロレスや、まるで江戸ラップのような長屋のお気楽連中の歌など見所はたくさん!
喜劇と悲劇の頃合いが絶妙な黒澤作品の名作。
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