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THE LAST MESSAGE 海猿のtakのレビュー・感想・評価

THE LAST MESSAGE 海猿(2010年製作の映画)
3.4
成長物語型映画のレビュー書く時、主人公が最初からデキる奴なのは嫌いだとついつい書く。例として、よく「海猿」第1作を引き合いに出してしまう私(「ハリー・ポッターと賢者の石」レビュー参照)。仙崎は最初から優れたダイバーなんだもの。ダメ男が頑張る話ではない。だけど第1作は人間的成長のお話なので、その醍醐味はあるんよね。

さて。第3作を地上波の録画で初鑑賞。潜水士になって6年目、3回目の結婚記念日を控えたある日。海上に築かれた天然ガス採掘プラント"レガリア"に、海底を掘削する通称ドリルシップが衝突する大事故、火災が発生。しかも台風が九州北部に迫っており、多くの要救助者がいる一方でタイムリミットが迫っていた。

映画は冒頭、結婚記念日向けに動画や録音をする仙崎と吉岡のほのぼのとした様子を見せる。またバカやってらぁーと思うのも束の間。いきなり緊急事態が発生する、単刀直入な切り出し。避難に向かう巡視艇の船団、ヘリコプターが飛び交い、観客は心の準備もままならない中で、「えっ!?もう?」と思いながらも事態を見守るしかない。仙崎の元上司だった下川が救難課長として全体の指揮を執り、巨額の資金を投じたレガリアを死守したい石油会社の人々や内閣参事官と激しく対立する。そしてレガリア設計者の桜木ら3名と2人の海上保安官が、台風が迫る中でレガリアに取り残される。

エンターテイメント作品は、他のことを考えさせない没入感を与えられるかが大事だと思っている。本作はそういう点については満点だ。いきなりの事件に観客を巻き込み、次々に緊急事態が起こる。しかもその危機は決して都合のいい話ではなくて、掘削船が原因で起きたことで納得できる展開。必死の活躍で乗り切った後は、取り残された人々それぞれの思いがぶつかり合う人間ドラマが用意されている。緩急つけながらも気を抜かせず、これまでの登場人物をうまく配置してシリーズファンにも心を配っている。ただ、クライマックスが迫って、台風近づいてたはずなのに、異様に海が静まっているのは難あり。ここで一気に興ざめしてしまうが、そこから物量と力技で感動に持っていく。すげえ。

安否もわからない中で待ち続ける妻と子供の不安な気持ち。ほぼ一人芝居の加藤あいは、公安職の夫を持つ妻の不安を演じる。「バックドラフト」のレベッカ・デモーネイも上手だったが、本作もなかなかだ。結婚記念日に向けて仙崎が仕掛けたサプライズを一人で噛み締める様子は、お涙ちょうだいと思う人もあるだろうし、仙崎のアツさに普通なら胸焼けしそう。でもこの状況下でこれを聞く彼女の気持ちを考えたら、お気楽な演出とは決して思えなかった。監督の術中にハマったか。憎まれ役の鶴見辰吾や加藤雅也、時任三郎の人命重視のひと言はシビれる。

そして映画を感動に導く常道である成長物語は、仙崎と共にレガリアに残された新人潜水士の服部に込められる。仙崎の励ましと仕事への向き合い方に、彼も行動を変えていく。

生死を分ける潜水士の過酷な現場で、服部が気持ちを吐露する場面。海上保安官の採用試験は応募できる年齢区分がかなり広いので、社会人経験がある転職組も多数いる。転職という不安もあるし、採用してもらえるならという気持ちで海上保安官になる人も少なからずいる。本人が仕事と環境に慣れてくれればいいが、それはその人次第だ。数ヶ月、わずか数日で戻ってきた人たちを個人的に知っているだけに、服部の言葉は重い。

もし海保を就職先に考えている人がこのレビューを読んでいたら、是非「海猿」第1作を観て欲しい。第1作は、公務員として仕事に携わること、民間との違い、法規でしばられる不自由さ、そこを乗り越えてやり遂げられること、それらがきちんと表現されている良作。冒頭で嫌いと言っておきながらだけども(笑)。罪滅ぼしをしておきます😝

最後に。北九州ロケはほんっと自己主張が強め(爆)。ラストシーンの救急車の扉が閉まる場面には笑った。でもレガリアの内部どうやって撮ったのだろ。いい仕事してます。
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