菩薩

父ありきの菩薩のレビュー・感想・評価

父ありき(1942年製作の映画)
4.1
乳、おっと、父ありき、小津戦時下の名作。急転直下、及び「孝行のしたい時分に親はなし」ムービー。長年離れて暮らす父と子、光陰矢の如し、父の背中側に無くとも、子はいつの間にか父を超える。二人で並び釣りをした河、流れ行く時間、昔も今も、ピタリと揃う二人の竿。かつての父と同じ道を選ぶ息子、息子が父に、そっと差し出すお小遣い、徴兵検査を通過し、仏壇に手を合わせる息子を見守る父、その目は喜びよりも、悲しみに満ちている気がする。息子の縁談も取り付け、本来ならばさぁこれからだが、「父親」の役目はそこで終わる。なんとも象徴的なラストは、山本直樹が「ありがとう」の最後に引用している。良い気持ちだ、しっかりやんなさい、悲しむ事はない、父さんはできる限りのことはやった、と呟く父の一生は、本当に幸せだったのだろうか、そんなの誰にも分からないが。自分がまさに死ぬときに思い残す事は、一体なんだろうか、父がまさに逝く時に、思い残す事はなんだろうか、そんな事を、考えずにはいられない作品。
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