家族だから当たり前のように近くにいることができるとは限らない。
互いに思い合っていても、共に住む時間が遠のいていく寂しさがひしひしと伝わる笠智衆の演技に胸打たれる。
教え子を修学旅行の不慮の事故で亡くし、自責の念にかられて教鞭を置くだけでは飽き足らずに、愛しい盛りの我が子と共に幸せに暮らせる権利まで避ける父。
そしてその父の覚悟を知ってか知らずか、不平を言わずにその覚悟に寄り添い続ける息子。
日本人らしい実直さがもどかしくもあり、その寡黙な2人の姿だからこその互いへの深い愛情が画面から零れ出るようだった。
わたしには男兄弟がいないので身近に父と息子というモデルタイプがないのだけれど、この作品を観ているうちに序盤は父の息子に対する痛切の想い、そして後半は息子の父に対する慕情がとても理解できるシンプルで無駄のない演出が流石である。
小津作品としては珍しく女優陣を最小限に抑えた男性だらけの作品。
故に後半登場する息子のお嫁さんの表情豊かな演技に再びまた共感を覚え胸が熱くなった。
