くじらめくじら

ペパーミント・キャンディーのくじらめくじらのレビュー・感想・評価

4.7
フォークナーの八月の光をおもいだした。ものすごく重いのだけど、遅効性の不思議な感動…
社会の大きな流れの中で翻弄される一人の男と、その周りの女性たちの存在。韓国の社会的な問題を反映させながら個人のドラマを実験的に語っていく凄さ。
シークレットサンシャインとかバーニングとか見ても感じたのだけど、イチャンドンにとって自然は救いの象徴なのかもしれない。しかも、それは豪華な花とかじゃなくて、なんて事のない雑草みたいなやつ。もちろん、それが単なる希望ではおわらないところに批評性があるのだけど。また、雑草みたいな見捨てられた自然の風景が、厳しい現実や大いなる謎に対峙せざるをえない個人の象徴ともとれる。
この映画では、ハルジオン〜ユンスニム〜ペパーミントキャンディーで繋がるわけで、そういう象徴的なアイテムの使い方がむちゃくちゃ上手いと思った。ペパーミントキャンディーは、まさに逆時系列で語られてく物語に縦糸を通す役割を担っているし。パラサイトにおける半地下生活者の「臭い」というアイテムもそういう感じだろうか。
そういう表面的でテクニカルな部分の話を抜きにしても、あまり味わった事のない感覚、世界に放り出されてしまった個人が世界の巨大な謎に飲み込まれていくことに発する恐怖と不安と恍惚と安らぎみたいなものが渾然一体となって押し寄せてくる感じは本当に凄い…
くじらめくじら

くじらめくじら