KANA

麦秋のKANAのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
4.0

『東京物語』から「紀子三部作」を遡る感じだけど、「麦秋」ってちょうど今の季節なのかなぁと思い。

紀子(原節子)の結婚をめぐる家族らの心情と周辺の人間模様。

全体を通して一番強く感じたのは無常観。
今までもいろいろあったし、これからもいろいろな事が自分たち家族の間を吹き抜けていくことだろう…今はたまたま紀子の結婚というフェーズなだけで。
整然とした小津調の画面からはそういう達観した視点を常に感じる。
台詞回しすら敢えて統制をとってる風に聞こえることが多い。
時代を考慮してもなんとなく文語調というか、やっぱり腹六分。いい意味での距離があり、それが品につながる。

ただ本作はそんなクールな小津調ベースの上で、女性たちのテンポのいい会話が明るく浮き立っている感覚を受けた。

気が置けない関係だとわかる紀子と義姉(三宅邦子)のやりとりでは『東京物語』では感じられなかった原節子の悪戯っぽい茶目っ気が出てるし、
仲良し4人組のガールズトークでは淡島千景のおどけた未婚キャラが愉快で可愛い。
紀子に息子との結婚を承諾してもらえてからの志げ(東山千栄子)のテンションの上がり具合も人間臭くて愛おしい。

そういう生き生きしたリズムみたいなものが、"儚い今この瞬間"を主観的に印象付けて脳裏に刻ませる。

ただ、心ってそうシンプルじゃないわけで。

いつもの笑みを一切表さずにひとりごはんする紀子のぎこちなさとか、
謙吉が素直に喜びを表現しないところとか、
どう見ても2人が恋してるようには見えないモヤりもある。
さりげなく会話に出てきた兄弟の面影を彼に重ねたのか?
それも踏まえての逆らえない直感なのか、それとも心に蓋をした妥協なのか。

…気持ちの行方を描き切らず、余白を置くセンスがすてき。

どうあれいずれ輪廻する。
人間はこの大宇宙の片隅でただ生かされてるだけなんだよなぁ…
ねぇ小津さん、そういうことですか?

諸行無常の象徴であろう、空を舞い行く風船や移ろう雲のカットや、ラストの麦畑のシーンのわびさびがたまらない。
「足るを知る」みたいな老夫婦の会話もしみじみと心に響く。


※初めてお爺さんっぽくない笠智衆を見た。始め気がつかなかった笑
KANA

KANA