TaiRa

麦秋のTaiRaのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
5.0
この前後に撮られたやつの中では一番良い。前回父娘やってた笠智衆と原節子が今回兄妹なの凄いな。

冒頭の朝の家族を映す場面からして凄い計算してあってビビる。これが日本家屋の正しい撮り方かぁ…って、いつもの事だけど。動線の設計と動き出しのタイミング、フレーム内死角の使い方、全部美しい。アラサーの原節子が「行き遅れ」認定されて早く嫁行けって家族から言われる話。原節子の女性像は現代の価値観と地続きで、結婚する/しないを自分の意志で決めようとしてる。結婚して、子供産んで、主婦やるのが女の本分とされる時代に迷い込んだ現代女性にも見える(今も大して変わってない?)。同級生との女子会でも未婚組と既婚組に分かれて、ふざけながらだけど、ディスカッションみたいになったり。未婚の女友だちを淡島千景がやってて、彼女は「自立した女性」として出て来る。原節子は二つの価値観の間で揺らいでる人。縁談の話を持ちかけられた原節子の喜んでるんだか、悟られないように嫌がってるんだか分からない芝居は意図的なのかな。学生時代「ヘップバーンのブロマイドばかり集めてた」というのに対して上司の男が「変態(レズビアン)なのか?」って言ってて時代。彼女はもしかしたら同性愛者かもしれないしアセクシャルかもしれない。とにかく彼女の意思は尊重されない。兄貴の笠智衆も厳しく言うが別に悪い人じゃない。両親も優しい様で結構キツい。兄嫁の三宅邦子もはっきりしない。最終的な着地に、戦争で死んだ次男の存在が滲む。原節子のせめてもの抵抗なのか、唯一許容出来る選択としての「兄の代替物」なのか。中心にある家族の死とその周りを動き回る子供の無邪気さが良いコントラストを生む。笠智衆が部屋から出て行かない子供を追い払う為に立ち上がり、ずんずん歩み寄って行くと子供が部屋を出て行くので、そのまま動きを止めないでくるっと元の位置に座り直すムーブが最高。曾祖父と子供たちの場面とか好き。劇中一回だけ台所にカメラが入る瞬間(一人でムスッとお茶漬け食う原節子)にハッとする。縁談を持ち掛けられた直後、それまで止まっていたカメラがトラックアップで動き出し、そこから数シーンに渡って移動撮影が組み込まれいるとこも。「ずっとこのままって訳には行かない」家族に、変動が訪れる瞬間。あと砂丘でのクレーンも珍し過ぎて記憶に残る。
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