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黒い雨のsobayuのレビュー・感想・評価

黒い雨(1989年製作の映画)
5.0
こうの史代の夕凪の街 桜の国を思い出しながら見た。同じ題材で白黒だから「ひろしま」と同じくらいに作られた映画のように錯覚しちゃったけど1989年公開。爆心地の特撮、作り込みの精巧さで時代を感じる。

基本的には戦後、田舎で暮らす一家の話で、近所の人たちも親切で良い人ばかり。だからこそ原爆の後遺症が恐ろしい。皆あっさり苦しみぬいて死んでいく。皆突然気が触れたように錯乱するのは、辛い記憶といつ発症するか分からない恐怖を必死に押し隠して生きているからなんだろうな。

虹が出たら、と最後に伯父が祈るけど、白黒映画に色は表れないまま終わる。

そして未公開だったという20年後にお遍路に行く矢須子の後日談。ここでやっとカラーになる。あぁ生きていたんだ…と明るい気持ちで見始めたら、本編よりガツンときたかも知れない。現代に矢須子が居ることで、あれは遠い昔の話じゃないぞって突きつけられる。矢須子が全て捨ててボロボロの身なりになっても口紅を塗ることを、業のように言ってたのが忘れられない。ずっとリアルに描いていたのに、ある瞬間で人がぱっと消える描写も忘れられない。忘れられない映画になった。
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