TAK44マグナム

ヘアピン・サーカスのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ヘアピン・サーカス(1972年製作の映画)
3.5
2000GT、夜を駆ける


首都高をトヨタ2000GTが疾走するオープニングからしてイカしているニューシネマ風味のカーアクション映画。
脚本が「蘇る金狼」や「ゴジラ(1984)」の永原秀一。

トヨタが全面協力しているので、当時のトヨタのワークスドライバーである見崎清志が主演。
役者さんではないので演技は棒。
でも無表情なところが逆に心に傷を負った主人公のキャラクターにマッチしていて味が出ています。
そして当然ですが運転は本物!
マカオグランプリの場面も自らステアリングを握って激走しています。

しかし本作の主役はやはり車!
トヨタが総力を結集して作りあげた走る芸術品、2000GTなのです。
当時の日本車では考えられない流麗なボディデザイン(主人公が乗るクラウンと比べても歴然)がセクシーで、まるで美しい女性モデルの如き。
実際に何度か生で2000GTを見ましたが、今の目で見てもうっとりするほどで、それは世間的にも同様の感覚なのです。
何故なら現存する数が少ないという希少価値もありますが、なによりも所有欲を満たす車なので1億円する個体もあるそう。
性能的には現在の普通車とも変わりませんが、やはり唯一無二の存在なので海外にもファンが多いらしいですね。
007のボンドカーとして使われたのも大きいかもしれません。

そんな2000GTの本作での扱いは前述した通り「主役」
かといって劇中、主人公は助手席にしか乗りません。
2000GTは彼の元教え子であるギャルの所有車なのです。
そのギャルがスピード狂で、「ヘアピンサーカス」と称して仲間とつるみ、夜な夜な車を飛ばしては絡んできた車をわざと事故らすゲームに熱中していることを主人公は知ります。
やめろという忠告をきこうとしない彼女を止めるため、主人公は自ら絶っていたスポーツカーのシートに再びおさまるのです。
何故かマツダのRX-3が主人公の車で、最終的にトヨタ車が「撃墜」されてゆく展開なのにトヨタが協力しているのは、どこかおおらかだった時代を象徴するようですね。

とにかく車が格好良く走っているのが撮れれば良いというスタンスの作品なので、物語は深くもないし、正直いってありきたり。
主人公の心情に寄り添うこともしないし、ラストもかなりアッサリです。
要するにドラマ部分は最低限にして、そのぶん車の走行シーンに尺を割いたのでしょう。
主人公、そしてギャルの取り巻き連中はプロの役者さんではなく、レーシングドライバーが本業ですしね。
でもこの選択は功罪あって、少なくとも主人公はプロの役者さんが演じた方が正解だったような気がします。
主人公が何を考え、どうしたいのかが全然伝わらないので、ラストカットもよく分からないし余韻もない。
アメリカンニューシネマに影響をうけたのは丸わかりですけれど、男女の愛や情を車のランデブーで表現するという実験的な部分も映画として上手くいっているかといったらそんな事はなく、どちらかというとただ唐突で分かりづらいだけと思いました。
雪上をドライブする2000GTは単純に格好良かったですけれど。

カーチェイスに関しては、現在では撮れないことをやっているので貴重ではあるでしょう。
クラッシュシーンもあるものの暴力性は低く、平凡な走行シーンも多いですが、やはり2000GTが思いきり首都高や一般道を走っているのは何とも言えない高揚感があります。
ボディカラーが派手なイエローなのも夜間走行が多いので映えて良いです。
また関係ない話ですが、途中でフォーメーション走行で一般車を煽る場面があります。
かつて週刊少年ジャンプで連載されアニメ化もされた「よろしくメカドック」に登場するチームGTRがフォーメーション走行を武器にして主人公を苦しめるのですが、まさか本作のこの場面が元ネタだったりして(苦笑)


全体的に暗くて重苦しく、さほどドラマティックでもありませんが、たぶん現在の日本ではこの手のものは製作されにくいと思われるので貴重なカーアクション映画として記憶に残すべき作品でしょう。
トヨタ2000GTの美しさ、そしてエンジンの咆哮と共に・・・