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めがねのnomoreのレビュー・感想・評価

めがね(2007年製作の映画)
3.9
春の海ひねもすのたりのたりかな(与謝蕪村)

何が自由か知っている
道はまっすぐ歩きなさい
深い海には近づかないで
そんなあなたの言葉を置いてきた
月はどんな道にも光をそそぐ
暗闇に泳ぐ魚たちは宝石のよう
偶然人間と呼ばれてここにいる私
何を恐れていたのか
何と戦ってきたのか
そろそろ持ちきれなくなった荷物をおろす時
もっとチカラを 優しくなるためのチカラを
何が自由か知っている
何が自由か知っている

この俳句とオリジナル詩がこの映画を語っています。

観光なんてありませんよ。
たそがれるんです。

何者かであることに疲れたタエコ(小林聡美)が、
何者でもなくていい。
何もなくていい、ただ自分であればいい。
ただ自由であればいい。
それに気づく旅だったのかもしれない。

その才能がタエコにはあったのだった。
それをユージは最初から見抜いていたのだ。
サクラが、ユージが、ハルナが、ヨモギが、
そして、犬のコージ(メス??)が教えてくれたのだ。

出演者はみんな「めがね」をかけている。
「めがね」はその人が世界を見るための装置なんじゃないかな。
タエコだけがみんなと違う「めがね」をかけていたんだ。

ラストで「めがね」をジムニーから落としてしまうタエコ。
慌てる様子もなく、笑みを浮かべる。
拾いにいこうともしない。
新たな世界を見る目を得た瞬間だったのかもしれない。
この映画を象徴するとても素敵なシーンだ。

来た。
春の海 波の音とマンドリンの音色
銀のトランク
梅干
メルシー体操
自転車の荷台
あずきのかき氷

地球なんてなくなってしまえば、って思ってました。
ここに来るまでは。

旅は思いつきで始まるが、永遠には続かないもの。

人は死んだらどうなるんですか?
この魚と同じ。2度は死なない。

大切なのは焦らないこと。そうすればそのうち...。

赤い毛糸のマフラー

何かを無理に得ようとしなくていい映画。
このゆったりした心地よさや空気感に身を任せればよい。
何もないから、何も起こらないからいいのだ。
そこで不安にならなくていいんだ。

でも何かあるのだ。
この島には、この海には、ここの人たちには。
それに気づいた人はまた戻ってくるのだ。
新しい「めがね」をかけて。

何かあるんでしょうか、ここの海には。
さあ、何でしょう。
何もないからいいのかな。
何かほしいものがあるんですか。
え?

浮いてる薬師丸ひろ子も実に良かったなあ。

シュールな宗教観を抱く人もいるようですが、
何度も観てしまう空気のようなサプリメント映画。
『かもめ食堂』が好きな人はきっともう観てますよね。

大地も人も愛おしく
すべてがここにある
そして自由に生きている
私がここにいる

エンディング曲”めがね”大貫妙子
(映画の空気感とテーマに寄り添う素敵な歌です)

*アマプラ配信をお家プロジェクター鑑賞
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