Kientopp552

ディア・ドクターのKientopp552のネタバレレビュー・内容・結末

ディア・ドクター(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 無くてもよかったのではないかと巷で取り沙汰されているというラスト・シーンは、蓋し、偽医者が、村で関わった病人・八千草に、失踪後もう一度関わっていくということで、偽医者が持つ人間性の深みを強調するものであり、ストーリーの全体像に真実味を持たせる上で絶好のエピソードである。

 そして、このラスト・シーンでの八千草の演技は、絶妙である。最初は、気が付かずにいたものが、不意に気が付き、事の次第に驚く。しかし、すぐに事情を察知し、これに笑顔で応える。この笑顔がまた複雑な笑いを込めており、わずか10秒にも満たない演技でありながら、それまでの90分前からのストーリー展開を凝縮させる力を持っているのである。

 自分の娘に知らせたくない病いを持ち、それでも自分の病気がどう進行しているのか、不安で知りたくて、結局は、偽医者に診察させる八千草。そして、その病状を偽る嘘を偽医者にも頼む八千草。元々嘘の身分の偽医者が、患者に嘘を頼まれるという、謂わば人生の「皮肉」である。

 この事情を頭に入れてラスト・シーンの八千草の笑みを読むと、そこに、嘘がバレないようにという遊び心の「共犯者」の笑みが紛れ込んでいるのではないか。この複雑なる笑みを体現した八千草薫という女優の演技力に筆者は脱帽するものである。
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