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八月の鯨のKKMXのレビュー・感想・評価

八月の鯨(1987年製作の映画)
4.4
 岩波ホールが閉館してしまったので、岩波ホールの代表的なガーエーである本作を鑑賞しました。
 なかなか上手く言えませんが、心の奥底にじんわりくる作品でした。忘れがたい作品になりそうです。ロケーションも抜群に美しく、繊細で丁寧で、しっかりとビターな厳しさもあるガーエーだったと思います。名作。


 海辺の家で生活するリビーとサラの老姉妹。リビーは目が不自由になってしまい、生活もなかなか大変です。サラはかくしゃくとして明るいばあさんで、生き生きしてますが、リビーの介護に追われています。リビーは意地悪な性格なので、サラはひっそりとストレスを溜めます。サラは家に大きな窓を付けたいのですが、リビーは嫌がります。
 近所に住むロシア貴族の末裔であるイケメン爺さんマラノフが釣った魚を土産に姉妹の家を訪ねます。マラノフはダンディーなので、サラはワクワクしますが、リビーはいつも以上に意地悪を発揮していき…という話。


 リビーとサラのキャラの違いが印象深く、年を食っても人生の捉え方次第でハッピーにも鬱にもなるな、と思いました。
 リビーはムカつくババァで、意固地になったのは病気で目が不自由になったからかと思いきや、娘と断絶気味だったり、幼馴染からリビーは昔から難しいと断じられたりしていたので、イヤな女だったんでしょうね。目が不自由で変わってしまったのであれば気の毒なのですが、どうもそうじゃない。15年間ずっと妹が面倒見ているとのことなので、娘には相当嫌われてるでしょう。さぞかし毒親だったと思います。
 夫を亡くしたサラをずっとサポートしていた一面もあって、基本は優しい人だと思います。しかし!だいたいの人は基本優しいんですよ。「あの人は根が悪くないから」とか言って許す風潮はクソだね!根が悪い人間なんてドキュメンタリー『マザー』のヤクザ親父やビル・ワイマン等少数派です。
 不機嫌に生きざるを得ない何かがあるのはわかりますが、若いうちに向き合っておけってんだ。娘とどうせトラブってるんだろうから、いいチャンスだったろうに。
 まぁ本作はリビーのスモールチェンジが描かれており、それこそがグッとくるポイントなんですけど。

 一方、サラはいいですね、明るくて。キョロキョロする表情もキュート。かわいいおばあちゃんです。不機嫌ババァの世話をしているので亡くなった夫の写真を見て弱音はくのも無理ないですが、きっとサラはああやって情動を調整して基本明るく生きているんだろうなぁと感じました。絵を描いたり、日々を楽しんでいるのが素敵です。友だちもおりますし。

 そして、サラとマラノフの間にデート感があったのも良かった!年食ってもときめき大事ですよ!お互いおめかして、素敵でしたねぇ。マラノフもマラノフで孤独だけどリビーみたいに負をぶっちゃけないのがダンディーでした。


 とはいえ、一番心に残るのはラストシーンだったりします。本作ネタバレもクソもない日常系の話なので書きますが、ラストに姉妹は幼少期に共に見ていた鯨を見るために海を眺めます。それがすごく良いんですよ!涙が出るくらい良い。2人の会話もたわいもないんだけど、なんか胸に迫るんですよ!なんなのだ、この素晴らしさは!
 少し言語化できそうなんですがなかなかまとまらず。とりあえず今はこの感動を胸にしまい、味わいながら、将来この気持ちを言葉にできる日を待つことにします。
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