セイラとリビーの姉妹は少女の頃から八月になると家の近くの入り江にやってくる鯨を眺めていた。それから長い年月が過ぎて戦争で夫を亡くしたセイラと病で視力を失ったリビーの二人暮らしを描いた映画。
特に何かが起こるわけでもない、二人の日常を切り取っただけの映画なのにひとつひとつのシーンが綺麗で絵になります。日差しを浴びきらめく海、庭のあじさい、古いけど素敵な二人の家…。
年老いても社交的なセイラは年を取って偏屈になったリビーに時に手を焼きながら海辺の家で暮らしています。二人の暮らしに流れる時間はゆっくりと穏やかで、その空気感にぼうっと身を委ねたくなります。
若くして夫を亡くし苦労しつつも結婚記念日には正装で赤と白の薔薇をテーブルに飾り、ワインでお祝いするセイラ、年をとって自力で生活することもままならず、素直になれず気難しくなってきたリビー。そんな二人の長い人生の喜びや悲哀が90分のフィルムに詰まっていたように思います。
最後二人で鯨を見に行くところで「鯨は行ってしまったわ」と言うセイラに、「そんなこと分からないわ」と答えるリビーの姿に希望を感じるラストでした。
こうやって、紆余曲折を経ながら長い人生はまだ続いていくんだろうな。決して派手ではないけれど人生の深さと細やかな心の機微を描いた穏やかで素敵な映画でした。