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赤ひげのkojikojiのレビュー・感想・評価

赤ひげ(1965年製作の映画)
4.7
1965年 黒澤監督。脚本は井手雅人、小国英雄、菊島隆三、黒澤明。原作は山本周五郎の『赤ひげ診療譚』

  第23作

 綺麗ごとすぎるか?
 あまりにも出来過ぎているか?
 ここまで完璧な人間などいないぞ!
 いやいやそんなことはない。こんな自分のことしか考えない時代だからこそ、観るべき映画ではないか。

 「お前は買い被りすぎている。きっと後悔するぞ」
 と、ラストで赤ひげに言わせている。黒澤自身、完璧な人物を作り上げてどこかに照れもあったのだろう。
 しかし、いいじゃないかと思う。こんなドラマがあっても。あまりに汚い水ばかり飲まされて、時には清らかな水も飲みたくなる。

 江戸時代の小石川養生所を舞台に、そこを訪れる庶民の人生模様と通称赤ひげと呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描く。

 3時間を超える映画だが、全く退屈しない。小石川療養所の医者の話ということで娯楽性に乏しいのは間違いないが、どのエピソードも強烈で面白い。

 前半は小石川療養所の患者のエピソードを綴って、赤ひげの医者としての考え方が描かれる。 
 長崎留学から帰り、療養所で勤務することになった保本は、赤ひげに反発して規則を破り、働こうともしない。

 そんな保本が心を開くきっかけになるエピソード。
 養生所内の薬草園の中の座敷牢に隔離されている美しく若い女(香川京子)の話はサイコの要素もあってドキドキする。
 なんと言っても、綺麗な町娘が突然狂気の女に豹変して保本を襲うシーンには度肝を抜かれる。あのおとなしい印象の香川京子がこんな演技ができるのかと驚く。ここで、観客は一気に物語に食い入ることになる。計算尽くされた脚本だ。

 蒔絵師の六助(藤原釜足)のエピソードも面白いが、さらに大工の佐八(山﨑努)とおなか(桑野みゆき)の悲しい恋の物語へストーリーは緩みなく展開していく。


 後半はおとよ(二木輝美)の看病と心の交流を通して成長していく保本(加山雄三)の成長を描く。

 おとよが可愛がる泥棒の7歳の子供は、この作品の後「どですかでん」の主役を務めることになる頭師佳孝。ここでも、天才的演技を見せる。

 保本の許嫁の妹で密かに保本に心を寄せるまさえ役は内藤洋子だ。この登場はすっかり忘れていたが本当に清々しい。


 「赤ひげ」という完璧な人物を描き、完成度も高いこの映画の後、トラトラトラで疲れ果てる黒澤監督の気持ちもわかないでもないような気がする。こんな映画を作った後だけに、挫折も大きかったろう。

 黒澤明と三船敏郎のコンビもこの映画で終わる。黒澤監督「黄金の中期」(私が勝手に言ってるだけ)の時代がこれを持って終わり、後期へと進む。

2022.12.11視聴-543
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